勇者パーティーの『魔物使い』ですが、魔王の力を引き継いだので異世界に逃亡します
レオナールD
第1話
「はあ……」
赤い大地が広がる荒野を少年が歩いている。
小柄な少年だった。黒髪で顔立ちは幼くあどけなさを残している。
乾いた大地を進む少年の顔は鬱屈とした感情で染まっており、瞳からは一切の希望が抜け落ちていた。
少年の名前はセージという。年齢は15歳で小さな農村の出身である。
「もう嫌だ……何で、こんなことになったんだろ」
声変わりをしていない高い声音でセージはつぶやく。脳裏に思い返されるのは一ヶ月前の出来事である。
かつて、セージは仲間と一緒に世界を旅していた。
パーティーの名前は『魔王討伐隊』――勇者ロイドをリーダーとして、文字通りに魔王の討伐を目的にしているパーティーである。
この世界には魔王がいる。あるいは、いた。
魔王は世界中のモンスターを支配しており、その力をもって人類を滅ぼそうとしていたのだ。
魔王討伐隊におけるセージの役割は『魔物使い』。
セージは生まれつき、モンスターと心を通わせることができるという稀有な能力を有していた。
その力を使って魔王に支配されているモンスターを解放して、人間に害を与えないように野に放すというのがセージの役割だった。
セージが魔王討伐隊に入ったのは13歳の頃。2年の歳月を費やして、討伐隊はとうとう魔王が住む本拠地へとたどり着いた。
その間、セージは魔王軍の幹部を説得して戦いを回避したり、飛行できるモンスターに自分達を運ばせたりして、仲間の危機を何度も救ってきた。
激しい戦いを越えて、仲間達との間にも深い絆が生まれている。少なくとも、セージはそう信じていた。
魔王との戦いは熾烈を極めた。
討伐部隊は少数精鋭。一人一人が卓越した実力を持つエキスパートであったが、魔王だって負けてはいない。
激しい戦いは半日以上も続き、ようやく魔王を討ち果たすことができたのだ。
これにて物語は完結。めでたし、めでたし。
そんなふうに閉められるはずだった。はずだったのに……
(それなのに、どうして僕の手にこれが宿るんだよ……)
荒野を歩きながら、右手の甲へと目を向ける。
意識を向けられたことで、手に刻まれた幾何学的な紋章が光を発した。
この紋章こそが、セージが1人で荒野をさまよう原因となったもの。魔王の刻印『魔神紋』である。
勇者が聖剣で魔王を貫いた瞬間、魔王の身体から光の玉が飛び出てきてセージの腕に入り込んだのだ。
そして、魔王の手に刻まれていたのと全く同じ紋章が浮かび上がった。
宿ったのは紋章だけではない。この刻印が手に浮かび上がった途端、セージはその場にいながらにして世界中のモンスターをコントロールすることができるようになってしまったのだ。
それはまさに魔王の力。人類を滅ぼす忌むべき能力だった。
『おそらくセージの『魔物と心を通わす力』は、魔王が持っていた『魔物を支配する力』と同系統のものだったんだよ。魔王を倒したことで行き場をなくした力が類似の能力を持ったセージに吸収されたのさ』
――というのは、魔王討伐隊の知恵袋である賢者アルズワールの解説である。
アルズワールの推測が正しかったのかどうかはわからない。
問題は……魔王の力を手に入れてしまったことにより、セージが人類の敵として認定されてしまったことである。
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