第6話
「そろそ罰を与えてくださいませ。いつまでも床に跪いているのは冷とうございます」
『む……? そうだな、それでは望み通りにローゼリッタに罰を与えるとしよう。火を降らせるのが望ましくないのであれば、国全体を氷に閉ざすのはどうだろう? 地の底に落としたり、全てを塩の塊に変えたりもできるが……』
「そうですわねえ、選り取り見取りの神罰に迷ってしまいますわ……」
「ま、待て! 待たれよ!」
和やかな口調でとんでもなく物騒な会話をする創造主とローゼリッタに、それまで黙っていた国王が声を上げる。
「ローゼリッタへの罰は我々で与えましょう。創造主様の手を煩わせるようなことはいたしません!」
『む……ローゼリッタよ、そこの見知らぬ人間がそう言っているが?』
「いいえ、私は神官。私を裁くことができるのは創造主様だけです。どうか貴方様の手で罰をお与えくださいませ……ついでに言っておきますと、そこにいるのはこの国の国王陛下ですわ」
『うむ、そうか。ローゼリッタがそう言うのであれば、そうしよう。神官一族の願いだけを聞くのが古の契約ゆえ』
「はい、どうぞ容赦なくやっちゃってくださいませ」
「お、お待ちくださいいいいいいいいいっ!」
国王がローゼリッタの前に走り込んできて、ジャンピング土下座を決めた。
枢機卿の娘に続いて、今度は国の頂点に立っているはずの人物が床に頭を擦りつける。
「申し訳ございませんでした! ローゼリッタに罪は一切ありません! 全ては愚息の間違いでした!」
「なあっ!? ち、父上! 何を仰るのですか!?」
「貴様も早く謝罪しろ! 創造主様に……ローゼリッタ
国王がクラウンの頭を押さえつけ、無理やり床に抑え込んで土下座させる。
「息子はそこにいる聖女を愛し、邪魔になったローゼリッタ様を排除するために苛めをでっち上げたのです! ローゼリッタ様には罪はありません。どうか神罰を与えるのはおやめください!」
「くうううううううっ、ち、父上~~~~~~!」
無理やり頭を下げさせられ、クラウンが顔を真っ赤にさせて表情を歪める。
そう……全てはクラウンがついた嘘。冤罪だったのだ。
クラウンは聖女であるマリンに恋をして、彼女と結ばれるためにローゼリッタを罪人に仕立て上げたのである。
「息子は廃嫡いたします。罪人として幽閉します! ですから、どうかローゼリッタをお許しくださいませ!」
「なあっ!? 父上だって私の計画に賛同したではありませんか! 教会の土地と財産を奪い取るチャンスだと笑っていたではありませんか!?」
「うるさい、うるさい! 私は無関係だ! 創造主様、どうかお許しくださいませ! 全ては息子の罪だったのです!」
「くっ……この卑怯者が! それでも父親か、それでも国王か!」
国王と王太子がみっともなく喚き散らし、口論を始める。
マリンは呆然と表情を失って棒立ちになっており、王妃は椅子に座ったまま失神していた。
「…………ふう」
しばし王族2人の醜態を眺めていたローゼリッタであったが、それも見飽きたのか床から立ち上がる。
ドレスの裾を払ってさりげなく汚れを落とし、先ほどまで土下座をしていたとは思えないような優雅な微笑を浮かべた。
「なるほど……つまり、王太子殿下は私に冤罪を被せようとした。その罪によって廃嫡して幽閉するということでよろしいですわね」
「ウム……仕方があるまい」
「この……愚王が! 私を斬り捨てるつもりか!?」
「衛兵、この罪人を捕らえよ!」
国王の命により、クラウンが拘束された。
藻掻いて喚き散らしていたクラウンであったが、衛兵から2,3発殴られると大人しくなる。
「次はそちらの聖女様ですが……今後も教会の預かりでよろしいですよね?」
「ふえっ!?」
蚊帳の外に置かれていたマリンは、急に槍玉にあげられて声を裏返らせた。
「今回のことで私の教育が甘すぎたことがわかりました。今後はビシバシと厳しく躾けていきますが……もちろん、よろしいですよね?」
「ウム……元より聖女は教会の預かり。好きにするがいい」
「ええっ!? ちょっ……」
「教育が終わるまで、教会の外に出られるとは思わないことです。逆らったら……本当にゴキブリを食べさせますよ?」
「そんなあ……」
マリンがへなへなと座り込み、泣き崩れた。
これで主犯の2人は裁かれた。残すところは共犯である。
「さて……最後に国王陛下と王妃様ですね。どうやら2人は疲れているようですし、隠居されては如何ですか?」
「い、隠居だと!? 私がか!?」
国王が目を剥いて驚きの声を上げる。
ここまでやっておいて自分はお咎めなしだと思っていたのだろうか。愚かなことだ。
「第2王子はまだ幼いですし、王弟殿下に後を継いでいただきましょう。王弟殿下は聡明で信心深い方ですし……きっと良い国王になられるのでは?」
「う、ぐっ……」
「私は良いのですよ? 創造主様に気に入らない人間を排除するようにお願いなど、とてもできません。しかし……いつでも未熟な自分を裁くようにだったらお願いできるのですから」
「…………」
ニッコリと笑顔で言ってくるローゼリッタに、国王は言い返す言葉もなく脱力する。
自分の命を犠牲にしてまで脅しかけてくる貴族令嬢。それに逆らう度胸は国王にはなかった。
「……弟に王位を譲って隠居する。それでいいな?」
「結構ですわ。とても賢明な判断でございます」
ローゼリッタは大輪の花が開くように喜色の表情を浮かべて、頭上を仰ぐ。
「そういうことで問題が片付きました。わざわざ創造主様をお呼びしたというのに、お手数をおかけいたしました」
『構わぬ。冤罪で片付いたのならば何よりだ。神官である其方が願わぬのであれば、我は地上には干渉せぬ。それが契約ゆえに』
「はい、いつも見守っていただきありがとうございます。我が主に心からの敬愛を……」
ローゼリッタが姿なき創造主に頭を下げると、強烈な気配が消失した。
どうやら、創造主が去っていったようである。王族、貴族、使用人……立場を問わず、その場にいた全員が安堵から肩を落としたのであった。
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