第122話 それぞれの進路

高校生活が終わりを迎えようとしていた……不思議な感覚だと思う。


この世界で意識を得てから三年が経った。


最初の頃は貞操概念逆転世界に転生できて喜んでいたはずなのに、思っていたのとは違いすぎて生活をするのに必死になる毎日だった。


「兄さん、準備はできていますか?」

「ああ。行こうか」


制服を着たツキと共に部屋を出れば、タエとユウナが待っていた。


「ヨル。一緒に行こ」


出会ってすぐに腕を組むユウナ。

部活を引退してからは、毎日のように一緒に夕食をしているのにあきない奴だ。


「ヨル。本日はおめでとうございます」

「うん。タエもありがとう。今日まで学校と仕事の護衛を兼任してくれて」

「仕事なのもありますが、ヨルと居られて嬉しいので問題ありません」


タエは随分と訛りが少なくなってきた。

未だにタエの田舎に行くと、お母さんとお婆さんからめっちゃ訛り口調で話しかけられるけど、それはそれで楽しい。


「今日は、みんなも来賓室から見ていると言ってましたよ」

「そうなのか?ランさんは忙しいだろうに」

「四年に上がる前の春休みぐらいヨルのために使いたいって言ってましたよ」


タエとランは同い年でスポーツマンという共通点で随分と仲良くなったようだ。

ランのファッションセンスをタエが学びに言ったりと、休みの日も一緒に過ごすことが増えている。


「そっか、あとでお礼を言わないとな」

「喜ぶと思います」


タエが運転する車に乗り込み。

話をしながら学校に向かう状況にも随分と慣れた。

それも今日で終わるのだと思うと感慨深い。


「兄さん。朝にこの景色を見るのも最後でしょ。どうですか?」

「ちょうど、そのことについて考えていたところだ。ツキは後一年だな」

「はい。生徒会長としての仕事は後輩に引き継いで、私はモデルの仕事に専念しようと思っています」


ツキは、若手モデルとしてランさんと共に最近は雑誌を飾るようになっている。


「ユウナは大学だな」

「うん。日大だからね。練習が厳しくなるけど。水無瀬先輩もいるし安心かな?」


ユウナは三年目で平泳ぎの部でインターハイ優勝を果たした。

日大への足がかりとなり、水泳で活躍を見込まれている。


「テルミ姉さんが経理関係に進んだのは意外でしたけど、合っていたみたいですね」


テルミは生徒会で会計をしていた実績を生かして、会計士を目指して勉強している。

日本では、医師と並んで難しい資格と言われているので日々勉強に集中している。


「ツユちゃんも医療関係の大学に合格したって言ってたぞ。さすが学年一位」


弟さんの病状は安定して、少しずつ普通の生活に戻っている。

それでもいつ発症するかわからない病気を抱える弟さんのためにツユちゃんは医療の道に進むことを選んだ。


家督を継ぐことも出来たが、ツユちゃんは弟さんや病気の人を助ける道を選んだ。

ツユちゃんのお母さんに聞くと……


「私が元気なうちは好きなことをしたらいいです。ただ、孫が出来たら私が育てます。いいですね?」


お義母さんは子供好きな人だったようだ。

家族を大切にする人で、俺のことも大切に為てくれているのが伝わってくる。


「ヒナタ姉さん。タエ姉さんは兄さんの護衛を続けて、レイカ姉さんは今のお仕事を続けるから、それぞれの道は決まったのですね」


彼女たちはそれぞれの道に向かって歩き出している。


「兄さんはどうするのですか?」

「そうだよ。みんなのは知ってるけど、ヨルはどうするの?【邪神様】として活動するのはわかっているけど、他にも何かするの?」

「私も知りたいです」


三人から受ける視線にどう答えようか考える。

別にたいしたことをしようと思っているわけじゃない。


「たいしたことじゃないんだけどな」


話を仕掛けたところで高校の校門が見え始める。


校舎には、黒瀬夜の横断幕が掲げられて、卒業おめでとうの文字が続く。

黒瀬夜以外にも、白金聖也、緑埜洋平、赤井隼人、黄島豊の名前の横断幕も続く。


男子応援団員の横断幕に目を奪われる。


「うわ~凄いね!愛されてるね。男子応援団」

「まぁ仕方ないでしょうね。

青葉高校男子応援団は全国的に有名になってしまったので、特に【邪神様】と【王子】の異名を持つ二人に会いたくて入学希望者が全国から殺到しているほどですから」


newtubeの影響は凄い。

三年間で、男子応援団の動画が十億回再生されて、【邪神様】との紐付けもいつの間にかされていた。


多分、オトネさんの策略なんだろうな。


「世界の【邪神様】だもんね」

「そのことなんだけど……俺は【邪神様】を止めようと思う」


「「「えっ!!!」」」


「もっとやりたいことが出来たんだ」


俺の発言三人は驚いたようだけど、元々女性を応援するために始めた応援団なんだ。

応援する側が応援されるのはおかしな話だ。


「やりたいことってなんなんだですか?」


珍しくタエから質問が飛んできた。


「それは……」


俺は彼女たちにやりたいことを告げると、どこか納得した顔をしてもらえたので少し安心する。


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