side殺し屋 ー 1
【シャドー】
私の名前はシャドー……生まれながらに人を殺すために訓練を受けてきた。
私に感情は無い。そう思って生きてきた。
「シャドー。今回の依頼は、東邦の国で力を持ちつつある、この男を殺してこい」
「【邪神様】?」
「ふざけた名前だ。神を名乗るなど許されるはずがない」
顔も見えない依頼者。
いつも暗い部屋の中で写真と情報が入った封筒だけが渡される。
「私はただターゲットを殺すだけ」
「ふん。頼んだぞ」
女が出て行くのを待ってから私も部屋出る。
相手の目的などどうでもいい。
私は依頼を受け。金をもらい。ただ生きるのみ……
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「あれが依頼者?」
私が初めてターゲットを見たのは、映像の中だった。
ライブ映像と呼ばれる動画サイトに身をさらす無防備さに呆れながら、イヤホンで相手の言葉を聞いた。
「それでは存分に酔いしれるがいい。ササヤキ」
その瞬間、私の脳は壊れた。
今までなんの希望もなく。ただ生きているだけだった白黒の日々。
それに色がついた。
「よう。どうだ新曲は?」
色をくれた彼が声をかけてくれている。
何か発したいのに声を上げることが出来ない。
私が呆然としている間に動画が終わりを告げて、もう一度曲が流れ始めた。
それは聞くほどに私の脳を壊していく。
二度聞くと、色を付けた世界が輝き出し。
三度聞くと、胸が熱くなって自然に涙が溢れてきた。
「私は彼のために今まで生きてきたんだ」
私は神の存在を知った。
「必ず会いに行きます」
それから依頼ことなど忘れて渡したは資料を読み漁り、あまりにも相手のことを理解していない資料に怒りが湧いてきた。
「この程度の情報で【邪神様】の何が分かるというのだ」
怒りが湧くと同時に私はサイトを検索して【邪神様】信者の集いと言うサイトを見つけた。
サイト内の書き込みを隅から隅まで読み漁り、二日をかけて【邪神様】の情報を集めた。
そして、ある違和感に気付く。
それは管理者が削除したであろう文章があるということだ。
私は高いお金を積んで、ハッカーに消去されたデータをゲットすることに成功した。
そこには……
「黒瀬夜……彼が【邪神様】」
そう、私はとうとう【邪神様】の正体を突き止めることに成功したんだ。
すぐに私は【邪神様】に会いに行った。
姿を現すことはない。
ただ、陰ながら彼の姿を見る。
そして、確信する。
胸の高鳴り……他の人間とは違う輝き。
彼こそが神だ。
それからの私は彼を見守る日々が続いた。
だが、そんな私に邪魔者が現れるようになった。
【邪神様】をつけ狙う裏の者たちだ。
私の戦いはここから始まった。
【邪神様】を誘拐しようとする者達を抑えるため、時に戦い、時に交渉して、裏の者達を退け続けた。
そんな私の下へ招待状が届いた。
「ブリニア王国だと」
軍事国家であり、現代において女王制度を維持する稀な国だ。
軍事に力を入れながらも、資源を多く持つこともあり天然ガス販売などの功績で国家資金を増やしたことでも知られている。
「大国からの要請か……」
殺し屋と言っても国を相手に戦えるわけではない。
話を聞くだけでも参加するしかない。
「あなたたちは日本に警戒されてしまっている」
王女の言葉によって、集まった裏社会の者達が黙り込む。
「我がブリニア王国が君たちを捕捉出来ているということは、日本も君たちを把握しているということだ。
交渉
誘拐
観察
拉致
テロ
君たちが行おうとしていることは、全て把握されて警戒されている」
王女は脅しのつもりで言ったのだろう。
だが、そんなことは私には関係ない。
「それがどうしたと言うのだ?」
私はこの場にいても得る物はないと判断して退出を選んだ。
「私はただ仕事を全うするだけだ」
私に続いて他の者も出てきた者がいるようだが、そんなことは関係ない。
裏社会の者達が、この場で顔を揃えているということは今後の方針がここに居れば知ることが出来る。
その後は出てくる者がいないことを確認して、会議室の中を盗聴して聞き耳を立てた。
「……【邪神様】への忠誠を誓い。子を成す権利を与えてもらえるとしたら貴殿らはどうする?」
私は王女の発言に会議室に戻ろうか立ち上がる。
だが、王女が言っていることは本当だろうか?
私が調べた限りでは、【邪神様】にはすでに心に決めた相手がいて、彼女たちを大切にしている。
むしろ、彼女たちを蔑ろにしてはきっと相手にもされなくなる。
「【邪神様】の心をわかっていない?」
王女の発言はあまりにも自分本位で【邪神様】のことを本当に考えているとは思えない。
「これは……【邪神様】に報告する必要があるかも……」
王女の不穏な発言とは別に私には懸念するべきことがあった。
私以外に出てきた者達がテロリスト集団だったことだ。
彼らには交渉も通じない。
また、彼らには彼らの神がおり【邪神様】を神だと思っていない。
「危険な者が多い。でも……裏から私が神を守る」
私は盗聴を終えて、その場を離れた。
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