第107話 不穏な気配
夏が終わりを告げて、秋が訪れる今日この頃……最近になって不穏な気配を感じるようになった。
視線と言うべきなのか、見かけたことのない外国人をよく見かける。
「タエ。最近、街に外国人が増えたね」
「ええ。旅行者が多いとニュースでやっていました。外国の方々も日本でのラブロマンスを求めてやってくるみたいですね」
「ラブロマンス?」
「ええ。今、日本は男性が多い国ランキングで一位だそうです。それで神秘の国、日本として有名だそうです」
神秘の国ねぇ。
ツユちゃんや王女様が言っていた危険が【邪神様】以外にも男性全体に向くなら物騒な世の中になるかもな……セイヤたちにも忠告しておく必要があるかな?
「タエ、母さんにボディーガードの強化を頼んでおいてくれ。後、レイカに高校全体の男子生徒の護衛も出来ないか聞いておいてほしい」
「そこまで大規模にですか?」
「ああ、嫌な予感がするんだ。何もなければいいんだが」
俺が高校に登校すると校門前が騒がしかった。
「何かあったのかな?」
今日は、ツキは生徒会の用事。ユウナは水泳部の朝練があるというので先に言っているはずだ。
「あれは……」
タエの視線を追いかけると、軍服に身を包んだ女性が校門に立っていた。
「ブリニア王女様?」
見覚えのある女性はスピカ・イゾルデ・ブリニア王女だった。
どうして軍服で校門の前に立っているのかは知らないが、明らかに不審者である。
【邪神様】のファンだと言っていたから、多分俺を目当てに来たんだろうな……
「タエ。車を止めて」
「いいんですか?」
「ああ。たぶん、相手の目的は俺だから」
「わかりました。何かあれば」
「そのときは頼む」
車から降りて校門に陣取る軍服コスプレ外人こと、ブリニア王女へ声をかける。
「こんなところでどうされたのですか?」
「おお!これは黒瀬殿!奇遇であるな」
元気にウソをつく王女に、俺は何を言っているんだこいつとイラッとしてしまう。
「それで、どうして軍服で校門に立っているんですか?」
「ふむ。ここが学び舎であり正装が必要だと聞いたからだ。登校してくる者も同じ服を着ているではないか」
「あれは学生服です。軍服ではありません」
「そうであったか……我が国で学生が着る服と言えば軍服が当たり前だったのでね。そんなことよりもこんなところで奇遇にも出会えたのだ。少しばかり話をさせてもらえないだろうか?」
これは俺が応じなければ帰らないだろう。
「わかりました。ですが、条件はこの場で話すこと」
「ふむ。私はかまわないが……まぁいいだろう。ウォッホン」
大げさな咳払いをしたかと思えば、ブリニア王女は片膝をついて胸に手を当てる。
軍人が忠誠を誓うような姿勢に見えるのでたじろいでしまう。
「我がブリタニ王国は全面的にあなたを支持することを誓わせていただきます。
あなたの活動、あなたの生き方、あなたの全てに対して支援させていただきます」
大げさな態度
大げさな発言
頭が痛くて額を抑える。
「ブリニア王女」
「私のことはどうかスピカと!」
「……スピカ様……お断りさせていただきます」
「えっ?」
俺の答えが意外だったのか、笑顔のまま固まってしまう。
「俺は今の活動で満足しているので、必要以上な支援は必要ありません。
今、望むことは俺が大切に想う人たち幸せに……穏やかに……暮らしていくことです。
だから、多大な支援はいりません。
ファンでいてくれるのは嬉しいので、それだけで十分です。
お話は以上でいいですか?学校があるので、これで」
固まったまま何も言わない王女様をその場に残して俺は学校へ入っていった。
学校の中にはツユちゃんが待っていてくれた。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。ハッキリと言ってきたから」
「うん。でも、しつこいと思うから油断しないで」
「ふぅ~ファンはありがたいけど。こういうのは困るからどうしたらいいんだろうな」
「なるべくこっちで対処する」
ツユちゃんの後ろにはレイカがいて、レイカが外交的な面でサポートしてくれるということだろう。
色々と迷惑をかけるが、外交的にも、男女的な話でもあまり俺が出て行くのはややこしくなりそうで難しい問題だ。
「ああ。頼む」
「任せて」
ツユちゃんと教室に入って、外国人の来日話をセイヤたちに注意して学校生活に戻っていった。
校門に残された軍服の変人はいつの間にか校門から撤去されていた。
ずっと固まったままだったところを暗部さんたちが排除したらしい。
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