時は流れる

Side名無し ー 世界が震えた

【名無し】



そのときの私が受けた衝撃は……世界が震えたと思えるほどだった。

いや、大げさな言葉ではない。

実際に、多くの女性達が歓喜を覚え涙を流し、そして股を濡らしたことだろう。


全世界で男性が減少する一途を辿り、減少した男性は女性への不信感や嫌悪感。

恐怖心から生殖機能を衰えさせ、男性としての威厳すら失われつつあった。


どの国も男性が国の運営から遠ざかり、年老いた男性達は女性に保護されるだけの存在になりつつあった。



男性への憧れが失われる寸前、絶望と諦めと……少しの希望を抱く日々の中で……



「親愛なる下僕共よ。待たせたな」



それはSNSの話題に上がっていた【邪神様】というキーワードにつられて登録していたファンサイトのライブ中継だった。


たまたま時間が出来た私はライブ中継を見ることが出来て、画面越しに現われた仮面をつけた男性に衝撃を受けた。


高身長で身体は筋骨隆々。割れた腹筋は男性らしさの象徴であり、見える腕の筋肉に抱きしめられたらと思うと身が焦がれる思いがする。



「此度は我の姿を皆に見せるため写真集を発売されることになった。

すでに手に取った者。まだ未入手の者。それぞれではあるだろうが、我を知ってもらうために下僕たちへの褒美である」



写真集?彼の写真集が発売されているなど聞いていない。

そういえば、文字が読めないが何かしらの告知がされているのは見た。

それがフォトブックだというの?ほしい。

絶対に手に入れたい!!!



「さて、挨拶はこのぐらいにして、次は新曲の発表だ」



さらに新曲発表の告知に私は胸を高鳴らせる。

音楽は素晴らしい。

言葉がわからなくても、彼の声と曲で酔いしれる。

一曲目もよかった。

何度聞いたのかわからないほどだ。



「今回の新曲は前回とは変わって、貴様らに我の美声をゆっくりと聞かせてやろうと思う。そのため曲を聞く際はイヤホンかヘッドフォンをつけて陶酔するが良い」



イヤホン?あったからしら?


私は部屋を探してヘッドフォン見つけたので、曲が流れるのを楽しみに待った。



「それでは存分に酔いしれるがいい。ササヤキ」



画面が切り替わり、ラジオ番組のようなスタジオに彼がマイクに向かって言葉を発する。

それは……聞いてはいけないデビルの発声。


何を言っているのかは理解できない。


だけど、セクシーなボイスが私の耳を通り抜けて脳を溶かして、ホルモンを爆発させる。

あふれ出す液体に下着を濡らし、今まで味わったことのない幸福感が全身を駆け巡る。



「よう。どうだ新曲は?」



いつ終わったのかわからない。


彼が歌声から、話し声に変わって私へ問いかけている。


だけど、言葉を発することができない。



「うん?どうした下僕ども、俺の美声に聞きほれたか?」



今……何かを発してしまえば全ての余韻が失われてしまうのではないという恐怖と……この瞬間を失いたくないという喪失感が言葉を発することを躊躇わせる。



「この後は質問タイムにしようと思っていたが、どうやら俺の美声でやられちまったみたいだな。今日はここまでだ」



どうやら私と同じ状態になった者達が世界中にいるようだ。


反応がなかったため、彼はライブを終わると言う。



「じゃあ、今からもう一度PVを流すからダウンロードしてくれよな」



もう一度、同じ曲が聴ける!!!


私はヘッドフォンを取り付け、さらに大量のタオルを用意する。



PVが終わった後は、私はダウンロードを即行で購入して一晩中聞き続けた。



「行くしかないわね……日本へ」



それはある外国の少女の決断ではあったが、たった一人のことではなかった。


自らに自信のある女性達は同じ目的で東の島国を目指した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あとがき


第六章序章です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る