side情夫 ー 6
【小金井綺羅】
あのあと色々なことがあった。
僕は男性用住宅から引っ越しをして、今はカオル先生とツバキ先生夫妻が暮らしているマンションの隣に部屋を借りてもらって一人暮らしを始めた。
一人で暮らすために必要なことをカオル先生に教わりながら、ボクは一人で生きていく生き方を学ぶことから始まった。
お父さんやオバサンが教えてくれなかったことをカオル先生は優しく丁寧にボクに伝えてくれる。
そして、ボクには様々な知識が足りないことを思い知らされた。
いつでもスイッチ一つでついていた電気は電気会社に連絡しなければいけないこと、水道もガスも暮らすのに必要なこと……法律や男女の関係……それらもただ漠然と違うとか嫌だと感じていたことに理由がついていく。
オバサンがしていたことは犯罪行為だった。
男性に無理やり性的なことをするのは犯罪で、お父さんがしていたことはお金をもらって行う仕事……まだハッキリとした違いはわからない。
確かにオバサンが近づくのは嫌だった。
知らない女性が裸で朝起きるのは気持ち悪かった。
だけど、オバサンはご飯を作ってくれて、ボクの世話をしてくていた。
そのお返しだと思ったらお父さんがお金をもらっていたこととは違うのかな?
そこにはボクの同意が必要なんだと言う。
同意や心……そういうものを理解するのが難しかった。
お父さんがしていた仕事のこと……
性への知識……
この世界の歴史を正しく理解するための時間……
カオル先生は、生活だけでなく生きていくために必要な知識をゆっくりと教えてくれた。
「どうして先生はボクに優しくしてくれるんですか?ボクが可哀想な奴だからですか?」
色々な知識を得ると……先生がしてくれたことの大変さもわかってくる。
だからこそ、ボクは先生に質問してみた。
「優しく?う~ん、そんなつもりはないけど。そうだね。まず簡単に言うなら、僕が先生で君が生徒だからかな?」
「生徒だから?」
「そうだよ。先生ってね。何かを教える職業なんだ。
僕は保健室の先生で、身体のことや心のことを人よりも知っている。
それに男性だから女性ではわからないことを聞いて応えてあげられる。
君たちよりも長く生きていることで、知識を得る時間も多くあった。
先生だから、僕が教えてあげられることは全て教えてあげたい」
先生は楽しそうに先生という職業について語ってくれる。
「ボクが生徒だから……優しくしてくれるんですか?」
「そうだね。君は僕の生徒になった。そして、僕は君の先生だ。優しくしているつもりはない。これはね先生として当たり前のことをしているだけなんだよ」
「当たり前なんですか?生き方を常識をルールを教えてくれる。そんなの誰も教えてくれなかった……お父さんはただ人生に諦めていて……オバサンはボクを利用して……ボクの周りには先生みたいな人はいなかったです!」
ボクは先生を困らせていることをわかりながら、かんしゃくを起こした子供のように泣いてしまう。
オバサンの家を出てから、何度かこうして情緒が不安定になってしまうことがある。
その度、先生は優しくボクの頭を撫でてくれる。
「そうだね。キラ君はこれまで人に助けを求めることも出来なかった。
それは知らないと言うこともあるけど、世界に無関心だったんだと思うよ。
でも、君は男子応援団の部室へやってきた。
それはキッカケだったんじゃないかな?君が世界へ興味を持つことになった」
先生の言葉にボクは一人の人物のことを思い浮かべる。
入学式で出会い。
男子応援団へ興味を持つキッカケになった彼。
「君の心はどこかで助けを求めていた。
でも、どうすればいいのかわからなくて、ヨル君の姿を見たときヨル君なら助けてくれるかもしれない。
本能のような……君の心が動いた瞬間があったんだと思うよ」
ボクが涙を流すと先生はヨル先輩の話をする。
不思議なことにヨル先輩の話を聞くと気持ちが落ち着ていくる。
「君は自分から殻を破った。僕はそれを導く先生でしかない。
これから君は多くの知識を持ち。経験を積んで。一人で生きていく道を決めていきます。
僕は優しくないよ。
いつかは君から離れて、君の一人だちを手助けする存在でしかない。
だから、君にも伝えておきたい。
依存して優しさに甘えるのではなく、強く一人で立てる大人になってください。
君が助けを求めたヨル君のような存在に……そして、君と同じような経験をしてしまった子達を助ける存在なってあげてください」
先生が優しくないと言った意味。
先生と生徒だと言った意味。
ヨル先輩の強さ。
まだまだ、ボクの心ではわからないことはたくさんあるけれど。
ボクはカオル先生に学び。
ヨル先輩のようになりたいと思った。
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