第100話 影の暗躍


パトカーが止まり、市役所職員と思われる女性が連行されていく。

俺はそれを確認してスマホを取り出す。


「どうやら上手く収まったみたいだ」


俺の横で電話を聞いているタエが影の集団へ指示を出す。

彼女たちは指示を聞くと散開して姿を消してしまう。


「この住宅はもう終わりだな」


「ですね。ワタスも知らなかったです。都会にこんな恐ろしいところがあったなんて」


「ああ、いくら貞操概念逆転世界でも……これは違うと思うんだ」



いくら貞操概念逆転世界が男性に痴女する変態ばかりだったとしても、処女を拗らせて男性を襲ってしまうにしても……それはダメなことではあるけど……小説の世界だと思えばそういう世界だと思えた。


だけど……これは違う。


絶対に違う。


貞操概念逆転世界でも……男性用住宅で行われていることは許されることではない。



「貞操概念逆転世界?」


「ああ。気にしないで。それはこっちの話だから。それよりもレイカにお礼を言いに行ってくるよ。タエも色々とありがとう」


「いえ、私はヨル君の指示に従っただけです。それにしてもよくわかりましたね。何か起きるって」



俺はカオル先生が動くタイミングを見越して、色々と準備をしていた。


一応、カオル先生にも護衛がついていることは伝えている。

カオル先生に何かあれば、ツバキ先生に申し訳が立たない。


それに日頃からお世話になっているカオル先生には傷ついてほしくない。



「まぁね。色々なことが起きることは考えているよ」


「ふふ、セイヤ君はヨル君は物を知らなっていいますけど。ワタスはヨル君がみんなのために色々としていることを知っていますよ」


「タエには俺の全てを知っていてほしい」


「えっ?」


「タエは俺の側に一番長くいてくれる。だから、俺の裏も表も知ってほしい。その上で好きだと言ってくれるなら、ずっと側に居てほしい」



レイカやツユちゃんとは結婚を約束している。


ユウナやツキもきっと離れないで居てくれるだろう。


だけど、テルミ、ラン、タエとは付き合って彼女である約束はしているけど正式なプロポーズをタエ個人にしたことがない。


「ワタスでいいんですか?」


「ああ。タエは俺の奥さんになるのは嫌か?」


俺の問いかけにタエは首を横に振る。


「嫌なはずがありません。嬉しい」


涙を流すタエ。


「約束する。タエには俺の側で俺の生き方を一番に見せるよ」


「はい。末永く」


タエは控えめではあるが、そっと俺に近づいてオデコを胸に当てる。


俺はそっと髪を撫で、顎を掴んで顔を上げさせる。


「ああ。お前は俺の女だ」


キスをして、俺はタエを連れて男性用住宅が見える場所を離れた。


今回の出来事は、貞操概念逆転世界が生んだ歪みだ。


一生……男性と出会う機会がなく……歪んでしまった心は……権力と言う名の市役所職員になったことで手を染める機会を生んでしまった。


男性の個人情報を手に入れ、男性用住宅の管理人と言う名の役職。


もしも、彼女がキラと出会わなければ、年老いた男性たちを慰み者として、同類である男性と出会う機会のなかった女性たちに対して小遣い稼ぎを続けていたことだろう。


だが、キラという美しくも若い男と出会ったことで彼女は……小遣い稼ぎ以上の欲に目覚めてしまった。


キラの親代わりになって……キラ自身を洗脳して支配しようと、様々な犯罪に手を染めた。


・男性保護法によって守られていた男性たちの個人情報漏洩

・売春


以上の犯罪を……



「彼女はどうなるんだろうな?」


「死刑……とはいかないでしょうね」


「そうだな」


「多分、一生強制労働が妥当だと」


「強制労働?」


この世界の法律はそれほど詳しくない。

タエが知っていることは意外だけど、彼女もまたこの世界に生きる女性なのだ。



「ええ。女性ばかりの世の中になって男性が少なくなると、やっぱり困る仕事がいくつが生まれるんです。

犯罪を犯した人はそういう女性では大変な力仕事とか、みんながやりたくない仕事をやってもらうって法律が変わったんですよ」


「なるほどな」


「犯した罪によって仕事内容は変わっていて、軽い刑なら街のゴミやトイレの掃除などだったと思います」


「へぇ~色々考えられてるんだな」



元の世界でも犯罪を犯した人は、刑務所で労働していたそうだけど。


また違うのかな?



「今回はかなりの重い刑になるでしょうね」


「重い刑?」


「はい。死ぬよりも過酷な仕事をすることになると思います」


「死ぬよりも過酷な仕事?」


「ワタスはわかりませんが、そういう仕事もあるんだって話です」


「めっちゃ恐いな」



俺は想像するだけ恐ろしくなるので、この話を切り上げて家路を急いだ。



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