side情夫 ー 5
【小金井綺羅】
胸が張り裂けそうなほどボクは走った。
ナビに従って家に辿りついた頃にはすっかり辺りは暗くなっていてボクの家の玄関を開ける。
「あら、早かったのね」
リビングに飛び込むと机に倒れる先生の姿が目に飛び込んでくる。
「おっオジサンが言ったことは本当だったんだ」
「キラ君。どうしたの?」
「どっどうして先生は寝てるの?」
ボクはリビングに入って先生に近づいていく。
先生は寝ているだけだ。
「先生は食事をして眠いって眠られたのよ。仕事が大変で疲れていらっしゃったのね」
オバサンの言葉に僕はオジサンの話を思い出す。
「いいか……男性用住宅は市役所が用意した男性斡旋所なんだよ。年老いて働けなくなった男を集めて女性用風俗に行く金もねぇ女たちや男も知らねぇ女に激安で男を斡旋してやがるのよ」
「斡旋?」
「おうよ。食事に媚薬と睡眠薬を仕込んで男に無理やり性的なことをしやがるんだ」
オジサンの話は理解できないところもあった。
だけど、父さんがそういう仕事をしていると聞いたことがある。
女性に体を売る仕事……
ボクもいつかはそうなってもいいとお父さんを見ていて思っていた……
だけど、無理やり体を自由にされたいと思っていたわけじゃない。
「今からソファーで休んでもらおうと思っているの。手伝ってくれない?」
気怠そうにボクに手伝えというオバサン。
「ねぇオバサン」
「なぁに?」
「先生に何かするの?」
ボクはオジサンに聞いた話を確かめるためにオバサンに質問を投げかける。
「何かって何かしら?何を聞きたいの?」
オバサンの顔が恐い。
怒っている顔を初めて見た。
「ここは男性の身体を売り買いする場所なの?」
「ふふ、なぁにそれ?誰かの聞いたのか知らないけど。そんなわけあるわけないじゃない」
オバサンが近づいてくる。
ボクは何か嫌な予感がして距離を取る。
「どうして?どうして離れるの?」
オバサンの顔が恐い。
今まで見たこともない顔で僕を睨んでくる。
「今までいい子にしてたのに悪い子ね!」
オバサンの手からスタンガンが飛び出して、バチバチと電気が走る。
「何をするの!!」
「私はあなたの親代わりなんだもの教育しないとダメよね。これもあなたのためなのよ。あなたが大人しく私の言うことを聞いて言う通りにしていれば、あなたは毎日幸せな生活の送れるの。それでいいじゃない。そうね。今日はちょっと可愛い子も手に入ったし。家族水入らずで楽しみましょう」
そういってオバサンは来ていた服を脱ぎ始める。
「何を!やっぱり」
「あなたは私の子供なの。私の言うことを聞いていればいいのよ!!!」
オバサンは発狂してスタンガンを振り回しながら近づいてくる。
ボクは必死に逃げながらオバサンと先生を遠ざける。
先生だけでも守らないと……
ふと、脳裏に黒瀬先輩の顔が頭を過る。
先輩のように男らしく頼りがいのある人になりたい。
「ボクはオバサンの子供じゃない。ボクの親はお父さんだけだ!!!」
オバサンの腕を掴もうと手を伸ばしたところで、オバサンがボクの腕を避ける。
「ふん。あなたは私の奴隷なのよ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
スタンガンを当てられて体が痺れて動けなくなる。
「ふふ、そこで黙って見てなさい。あなたを心配してきてくれた先生があなたのせいで好き勝手に襲われるシーンを見てね」
ボクは手を伸ばして、オバサンの足を掴む。
「ダメだ。そんなことしちゃいけないんだ」
「うるさいね!こんな可愛い男の子を抱ける機会なんて私にはないんだ!」
オバサンがスタンガンをボクに向ける。
「黙ってな!」
あの痛みが来ると思ってボクが目を閉じる。
「エイっ!」
「痛っ!」
オバサンが「痛い」と言う声を発したのを聞いてボクが目を開けると、先生がオバサンの腕を締め上げていた。
「ハァ~ここまでヒドイ状況だったなんてね。キラ君。ごめんね一回目を阻止できなくて」
「えっ?えっ?」
小柄な先生がオバサンを抑えつけている光景に理解できなくて、ボクは戸惑う。
「痛い痛い離して!」
「黙れよオバサン」
いつも優しい笑顔で、ほんわかとした雰囲気をしているカオル先生が冷たい声でオバサンの腕をさらに締め上げる。
「ぐう~」
「大事な生徒を傷物にしたんだ。ただで住むと思うなよ」
「ヒッ!」
先生はスマホを取り出して、学校と警察に連絡を入れる。
ボクは動けない身体で、押さえつけられているオバサンと先生を見つめながら、ただただ状況を見ていることしかできなかった。
しばらくして警察がやってきてオバサンを連れていく。
学校からは女性の先生がやってきて、カオル先生をしかりつけていた。
「お前は危ないことを自覚はないのか」
頭を抱える女性教師にボクは状況に追いつかない頭で呆然と見つめていた。
「キラ君。驚かせてごめんね。
最初からここに来る前に調査はしていたんだ。
君がいなかったから、僕を囮にして本性を現してもらおうと思ったんだけど。君が途中で帰ってきて寝たフリをすることにしたんだ」
先生は最初からわかっていたんだ。
ボクは腰が抜けて座り込む。
「本当は君の口から助けてほしいって言ってほしかったんだけど……朝と顔つきが変わっているね。何かあった?」
「……ボクは……何も知らなかったんですね」
ボクは今まで何も知らなかった。
お父さんの本当の仕事も……オバサンの思惑も……全く知らなかった。
「そうだね。でも、君はまだまだ子供だから、これから知っていけばいいんだ。僕は君の心が壊れてしまうことが一番怖かった。だけど、君は……僕が思っているよりも強かったね」
先生はそう言って笑いながらボクの頭を撫でてくれた。
安心したボクはそれまで緊張していていたこともあり、意識を失って眠りについた。
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