第99話 先生の相談 後輩の悩み

小金井が保健室から走り去っていく光景を見た俺はカオル先生の下へと訪れた。



「先生、失礼します」


「やぁ、いらっしゃい」



いつものほのぼのとした雰囲気をしたカオル先生ではあるが、その顔はどこか不安と疲れを滲みだしているように思える。



「キラが走り去っていったんですけど。何かありましたか?」



昼食をみんなと取り終えた後だったのでキラに気付くことができた。



「う~ん……どうなんだろうね?本人は何でもないって言ってるんだけどね」



先生は悩むように「どうしたらいいんだろうね」と小さく呟いた。



「キラに何かしら悩みがあり、先生はそれを解決してやりたいってことですか?」


「まぁそうだね」


「うむ。会いに行ってみますか?」


「えっ?」


「学校では話が出来ないことでも、キラの家に行って話すなら話しやすいかもしれないので、キラの家に行ってみますか?」



俺の提案にカオル先生は考え込んだ。



「うん。僕もそうしようと思ったんだけど。逃げられちゃって」



先生は、見た目は子供ような人だけど。

人一倍、俺たちを見てくれて大人な心を持っている人だ。



「わかりました。先生は何かあったときキラを守ってやってください。大人として」


「僕が大人としてキラ君を守る?」


「はい。どんな悩みを抱えているのかわかったとき、キラが逃げてくる場所になってやってほしいんです」


「ヨル君はキラ君の悩みがわかっているの?」


「いえ、ただ」



貞操概念逆転世界である以上……男が悩みを抱えることがあるなら……それは女性が関係していることじゃないかと推測できる。


今まで、キラと会うのは学校だけだった。


ゆっくりと話す機会もなく。

キラがどんな生活を送ってきたのかもしれない。



「俺が団長として話を聞いてみようと思います」


「うん。そっか……ヨル君は頼りがいあるもんね」


「俺は先生も頼りがいあるって思ってますよ」


「えっそう?そうかな?僕頼りがいある?ツバキちゃんにはいつも頼りないって言われるんだけど」



カオル先生は嬉しそうに体をくねらせながら見悶えている。



「それでは俺が話を聞くということで」


「ちょっと待って!」


「えっ?」


「僕が取り掛かった仕事だからね。最後まで僕がやりたいんだ。キラ君のお家には僕がいくよ」



やる気に満ちたカオル先生の顔に対して、これ以上俺が行くというわけにはいかなくなる。



「わかりました。ちなみに、キラが住んでいるところを伺ってもいいですか?」


「うん。もちろん」



キラが住んでいる住所を聞いて、保健室を後にする。



午後の授業は始まっているが、今は取り掛からなければいけないことがあるので部室に入ってスマホを取り出す。



「タエ?休憩中にごめんにちょっとお願いしたいことがあって」



授業中は休憩時間であるタエに連絡を取ってあるお願いをしておく。



「次は……レイカは電話に出てくれるかな?一応メッセージを送って、電話をしたいんだけどじかんある?」



すぐにレイカから折り返しの電話がきた。



「ごめんね。忙しいのに。全然大丈夫?ありがとう。ちょっとお願いしたいことがあるんだ」



レイカは二返事でOKしてくれる。



「うん。ちょっと調べてほしいことがあって。ああ。人なんだけどね」



俺はキラについて調べてもらうため、レイカにお願いして暗部さんたちを動かくようにお願いしておく。



「ありがとう。まぁ何もなければいいんだけど。ちょっと周辺がどうなっているのか知りたくてね」



カオル先生に任せるつもりではあるが、大切な後輩と、顧問をしてくれている先生のために動く分には権力を使っても問題ないと思える。



「あとは……ツキは授業に戻ったからな。母さんに電話するか」



新しく入ってきた応援団員にもボディーガードを付けてもらえるように連絡をつけておく。



母さんからは承知したと連絡をもらえたので、今後の応援団活動にも安心感が持てる。



「とりあえずはこれぐらいかな?」



あとはセイヤに事情を話しておいた方がいいだろう。

新人団員の管理はセイヤとハヤトに一任しているので、俺が気づいたこととしてあげておく。



「ふぅ~人が増えれば色々なことが起こるもんだ。ジュリに見てほしい子がいるって言われてなければそこまで気にしてなかったかもな。そろそろ撮影した写真集の発売とか、新曲リリースとかもあるけど。

俺がすることは全部終わったから、一段落出来るよな?


今年の夏は男子応援団の合宿とかにもいければいいけど」



俺は自分に出来ることをやり終えて先のことを考えながら教室へと戻った。

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