Side情夫 ー 3
【小金井綺羅】
暗い暗い路地の向こう。
どこにも繋がっていない道は、光は差し込んで来ない。
どこに行きたいのか、どこにも行けない……
暗い暗い路地の先には沼があり……
黒い黒い沼は覗き込んでも、底が見えることはない。
沈みだしたらどこまでも沈んでいく。
逃げ出したいのに足が泉のそこにどんどん沈んで逃げることもできない。
暗く……黒く……何かがまとわりつく場所は……ただボクを捉えて逃がさない。
だけど……ボクはそもそもどこかに行きたいのだろうか?逃げ出したい?何から?
何もわからない。
ここはボクの場所で……ボクはどこにもいくことなど出来ない……
「ジジジジジジ」
ふと、音が響いてテレビがなっている。
アンテナの繋がっていないテレビ……何も写すことはない。
そのはずなのに……
「よう」
黒髪で長身……筋肉質で威圧感があり……低く声がボクに言葉をかける。
「はい」
「お前はバカか?」
「えっ?」
「いいか、嫌なことを嫌と言えよ」
「でも……何が嫌なことなのかボクはわからなくて」
ボクの質問に影は何も言わないままに消えてしまう。
また暗闇と黒い沼だけが、広がっていく。
「ピピピピピ」
それが夢である限り終わりが来る。
目覚まし時計の音で目が覚めると、カーテンの隙間から太陽の光が差し込んできてた。
「うっうんん」
朝目覚めるといつもボクは裸のままだ。
そして……高校生活を送り始めてからは……いつも誰か知らない女性が隣で眠っている。
「またか……」
それは同い年ぐらいだったり、凄く上の人だったり様々でどうして裸なのか理解できない。
「ハァ~」
ボクは女性を起こさないようにベッドから起き上がって部屋を出る。
おばさんは最近は毎日来ることがなくなって、食事だけを置いていく。
朝は、おばさんが作った物を食べて制服に着替えて家を出る。
「眩しい」
最近、暑くなってきたせいなのか、身体がだるい。
教室に入ると、女子たちがボクを見てコソコソと何か話している。
最近、女性の声が耳に入ってこない。
彼女たちが何を言っているのか、気になるけど聞こえてこない。
「よう。おはよう。今日も顔色悪いな」
隣の席に座り男子生徒に声をかけられて、ボクは彼を見る。
「おはよう。うん。ちょっと体がだるくて」
「お前もか……この時期は体が重くなるよな。それに女子の匂いを嗅いでいるだけで気分が悪くなるぜ」
隣の席の彼は女子が苦手なようで、良く女子の文句を言っている。
「気分が悪いなら保健室に行って来たらどうだ?」
「ああ。うん。ちょっとそうするよ」
最近はいつもこの流れで、ボクは保健室のベッドを借りて眠りにつく。
毎晩、なぜか眠くなって知らない女性が裸で眠るようになって……ボクの疲労は貯まっていた。
保健室のベッドに入ると、すぐに眠気が来て午前のほとんどを睡眠に費やす。
保健室のカオル先生はいつ来てもいいよ。いつでもお出でと優しく言ってくれて。
保健室で寝ている間は女性を感じなく済む。
目が覚めても横には誰もいない。
カオル先生もボクが寝ていると姿を消してしまうことが多い。
「う~ん。良く寝た」
保健室はボクにとって安心して眠れる場所なので、すぐに眠りに落ちてしまう。
「やぁ、おはよう」
「あっカオル先生。いつもすみません」
「うん。それはいいんだ。お腹空いてない?」
カオル先生に言われてお腹を擦れば、確かにお腹が空いている。
「空いてます」
「ふふ、よかった。よかったらお昼にしよ」
そう言ってカオル先生はお弁当を差し出してくれる。
カオル先生お手製のお弁当箱には、美味しいご飯が詰まっていてオバサンが作る冷たくて美味しくないご飯より数倍美味しい。
「ねぇ、キラ君」
「はい?」
「何か嫌なことあった?」
「嫌なことですか?」
「うん。結構毎日寝不足だから、家では寝れてないのかなって……思ってね」
「う~ん、ちゃんと寝れてるはずなんですけど……なんでか朝になると凄く疲れるんです」
裸の女性が寝ていることを話していいのか躊躇ってしまう。
もしも、隣の席の男子のように女性を毛嫌いしている人なら、裸の女性が寝ているなんて話をしたら、ボクも気持ち悪いと思われてしまうんじゃないか……そう思うと言えない。
「寝ているときにか……う~ん。今度検査してみようか?保健室で寝ているときは、しんどそうに見えないけど。夜には何かあるのかもしれないしね」
「検査ですか?」
「うん。僕がキラ君の家にお泊りして一緒に寝るの」
小柄で可愛らしいカオル先生は楽しそうに提案してくれる。
だけど……
「だっダメです!」
ボクは椅子を倒してしまう勢いで立ち上がって、カオル先生の提案を拒否した。
「そっか~ご家族の方に怒られちゃうかな?」
カオル先生の悲しむ顔に胸が苦しくなる。
「ごっごめんなさい」
ボクは食べかけのお弁当をもって、保健室を後にした。
何故か、カオル先生をボク家には呼んではいけない気がして……ボクは自分の中で生まれた疑問がなんなのかわからないまま、教室に向かって走った。
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