第96話 昼食はのんびりまったり

 二年生になってもランチは相変わらず、生徒会室の横にある教室でテーブルにならんで食事を取るようにしている。



 メンバーこそ、レイカが卒業したいため。


 テルミ、俺、ツユちゃん、ツキのメンバーへと代わっている。



 ツキは首席合格だったので生徒会の勧誘を受けて現在は生徒会メンバーだ。


 友人であるキジマアイリさんも誘って二人で生徒会入りを果たした。


 名前だけでは気づかなかったが、ドリルヘアーは印象的だったので生徒会室であったときは驚いたが、彼女は気にしていない様子でスルーされてしまった。



 ツキ曰く



「兄様以外の男性は興味がないそうです。ただ、最近は一人だけ気になる男性が出来たと話していたみたいですが、それ以外の男性は目にも入らないみたいです」



 ということで、キジマアイリさんとの遺恨?は気にしなくてもいいそうだ。



 今は兄様とやらが落ち込んでいて、そちらに意識が向いているので、どうやって元気づけるのかばかり思案しているそうなので。



「よっヨル君。今日は私がお弁当を作ってきたんです」



 緊張した様子でお弁当箱を差し出したのはテルミだ。


 生徒会長の仕事や三年生になって受験も控えて色々と忙しくしているはずなのに、尽くしてくれるテルミはとても可愛い。



「ありがとう。美味しくいただくよ」



 レイカが用意してくれるシェフの料理もおいしくはあるが、彼女の手作りというだけで特別に美味しく感じてしまう。



「うん。凄く美味しいよ」



 人数分作ってくれているので、ツユちゃんやツキも美味しそうに食べている。



「そうだ。ヨル君は知っていますか?」



 テルミが食事も終わりかけになり話題を振ってくる。



「何を?」


「最近、至る所でローレライさんの声を聴いたという情報が出回っているんです」


「ローレライ?」


「ええ。なんでも凄く歌が上手い方なのですが、誰かが近づくと隠れたり逃げてしまうそうなんです」



 ふと、一人の人物を思い浮かべるが、彼女のことを言ってしまうのはいけない気がして黙っておくことにした。



「俺も聞いたことはあるよ。でも、見たことはないね」


「そうですか。私も歌が好きなので聞いてみたいって思ったんです。あっそういえば【邪神様】が凄い話題になっていますね」



 自分のことのように【邪神様】の活躍を喜んでくれるテルミ。


 俺が歌の仕事をしようと彼女たちに相談したとき、レイカやランは心配だと反対を口にした。



 だけど、テルミが……



「ヨル君の声って素敵ですよね。

 とても低くて耳元で聞くと幸せって感じられて……体育祭の時に聞いた歌は、心が掴まれる思いがしました。

 私達だけで独占したいと思いますが、ヨル君が歌うことで大勢の女性たちが幸せになれるなら私は賛成です」



 そう言ってくれたおかげで、反対していた二人の意見をくつがえしてくれた。


 テルミの意見に他のみんなも納得してくれたことで、俺は彼女たちに応援されて歌手活動が出来ている。



「ありがとう。ヨウヘーと新作の歌詞を書いたから、曲の方も近々出来上がってくると思うよ」


「そうなんですね!楽しみです」



 俺の一番のファンはテルミかもしれない。



「ツユも楽しみ」



 ツユちゃんがテルミのお弁当を小さい口で、少しずつ食べながら言ってくれる。



「ありがと」



 このメンバーでのご飯はいつもほのぼのしていて心地よい。



「兄さん。次の曲はどんな風になるんですか?」


「うん?なんでも、セリフ多めで耳元で囁く系にするってヨウヘーは言ってたな」


「耳元で囁くセリフ多め!!!」



 俺の言葉にテルミが反応する。



「うん?どうかしたのか?」


「ヨル君。それはいつ配信されるのですか?」


「うん?まだ曲も出来てないから、夏ぐらいには配信できると思うよ」


「わかりました」



 何故か、テルミの勢いが凄い。



「最近、弟も元気になってきたよ」



 テルミが自分の世界に入ると、ツユちゃんが話し始める。

 ツユちゃんの弟とはあれ以降もちょくちょく病院を訪れて話をするようになった。


 成長と共に少しずつではあるが、病状が安定してきてくれていることもあり最近は元気になってきているのだ。



「そうか、また会いに行くよ」


「うん。来て。【邪神様】の応援もしている」


「はは。ありがと」



 ツユちゃんは姉弟でライブに来るのを目標にしてくれているそうだ。



「そういえば、ヨル君男子応援団に新入部員を迎えると聞いたのですが」


「ああ、セイヤの提案でな。まぁ男子だけってことにはなると思うからなかなか難しいと思うけどな」


「生徒会で手伝えることがあればいつでも言ってくださいね。何を置いても協力します」


「うん。ありがと。そのときはよろしく」



 テルミは満足そうに頷いくれた。


 そのあとはまったりと昼休みが終わりを告げるまで話をして、それぞれの教室へと解散する。


 途中の廊下でツユちゃんと手を繋いだり、隠れてキスをするのは唯一帰る教室が同じだからという特権だとツユちゃんが言っていた。



「ヨル。大好き」



 そう言って抱き着くツユちゃんの顔は貞操概念逆転世界の女性らしく女豹を忍ばせる。



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