第95話 謎の人物
いつも通り男子応援団の部室でくつろいでいる際に、ヨウヘーのヘッドフォンから聞こえてくる声に足を止める。
「いい声だな」
俺の言葉にヨウヘーはヘッドフォンを外して嬉しそうな顔を見せる。
「だろ。最近お気に入りの声なんだよ」
「誰なんだ?」
「それがさ。名前だけで顔出ししてないんだよ。Hって言うらしいことしかわからないんだ」
「へぇ~顔出ししてないアーティストか、凄いな」
Vtubeとかも最近は増えているらしいけど。
顔出ししなくても音楽と声の良さで何とかなるものなんだな。
「だろ。この声で火がつくのは明らかだよな。俺も楽曲提供したいところなんだけど。どこにDM送ればいいのかもわからないんだよ」
「ふ~ん。乙音さんに調べてもらえばいいんじゃないか?」
「それもやってもらってはいるんだけどな」
ヨウヘーからの熱烈ラブコールを送るなんて珍しいことなので、どうにか叶えてやりたいが見当もつかない。
「まぁ、いい知らせを聞くのを待ってるよ」
「おう。楽しみにしとけよ。それよりも【邪神様】の次の曲の話だけど」
「ああ」
最近はヨウヘーに習うようにして、歌詞を書くようになった。
まだまだ恥ずかしい文字を書く時はためらうが、気持ちは出来るだけストレートに伝える方が歌詞の中ではいいという話なのでそうしている。
作曲とは言えないが、最近はピアノも始めてみた。
まだまだ指の体操程度で曲を弾くと言うレベルではないが、いつかはピアノを弾いて歌を歌ってみたい。
「うん。とりあえず、これでいいだろ」
作詞作業が一段落ついたところで解散となった。
放課後の学校は夕日に照らされて、暑さが近づいてきているような気がする。
ふと、どこからが声が聞こえてきたので振り返るがどこから声が聞こえてくるのかわからない。
「タエ。今、歌声が聞こえなかった?」
「いえ。何も聞こえてませんよ」
風に乗った空耳だったのか、俺は聞こえてきた方角へ向かって歩き出す。
どこかで聞いたことのある声に不思議な感覚を覚える。
間違っていてもいいかという思いで、風に乗る声を追いかける。
だんだんと近づいていくと、急に歌が鳴りやみ角を曲がったところには誰もいなかった。
気配はある。
だけど、隠れた相手を探し出してまで追いつめるつもりはない。
「よかったのですか?」
タエも気配には気づいているようだ。
「ああ、相手がバレたくないと思っていることを暴くものではないだろ」
「お優しいのですね」
「そうか?誰でも秘密にしたいことはあるだろ」
俺はその場を離れながら振り返る。
茂みの中から出てきた女子生徒は、入学式の際に案内した女の子だったので、聞き覚えのある声だったのだと納得する。
「今日はここで」
「ああ。ここまでありがとう」
タエに見送られて食事会の会場へと入っていく。
会場にタエを入れることは出来るのだが、タエが堅苦しいところは遠慮したいと言うので、今回は一緒に入らなかった。
「ヨル」
名を呼んで近づいてきたのはレイカだ。
「レイカ、少し久しぶりだね」
月に数回しか会えないレイカとの待ち合わせであり、また今回はレイカが引き継ぐ東堂家の集まりに参加するためでもある。
「大学だけじゃなくて、色々と忙しかったわ。母さんが私の結婚を決めてからは引退の準備に入るって言い出すし。色々とグループの引継ぎ業務に追われる日々よ」
今日の集まりも、レイナさんが主宰ではあるが、レイカの顔を皆さんに見てもらうための会でしかない。
「たまには休むもうね。そのときは膝枕でもしてあげるから」
ドレスアップして、髪型もセットされているレイカはいつも以上に綺麗である。
胸元が強調した衣装も良く似合っている。
そのため背中に手を添えてポンポンと刺激する。
「膝枕……いいわね。この後にお願いします」
悪戯っ子のような笑みを浮かべるレイカは、相当疲れているようだ。
「おまかせあれ」
レイカをエスコートするように腕を組んで、数名の方々に挨拶をする。
たまに色目を使おうとする女性がいたが、レイカだけでなくレイナさんがやってきて睨んでいく。
会食が終わるとホテルのスイートルームで休憩を取る。
「ふぅ~まだまだなれないわね」
「お疲れ様」
夜景が一望できるスイートルームは広いだけでなく。
寛げる和室や、ソファーなども高級感を保ちつつ癒しも兼ね備えている。
「ふぅ~」
俺がソファーに腰を降ろすとさっそくレイカが、俺の膝めがけてソファーにダイブしてくる。
「ハァーいいわ~この固さが男性の筋肉よね」
太ももをモミモミされるのはくすぐったい。
「はいはい。お姫様。お疲れ様でした」
膝枕に顔をうずめるレイカの髪飾りを取ってサイドテーブルに置いて行く。
装飾品を全て取り終えると、柔らかくて良い匂いがするレイカの髪を優しく撫でる。
「ヤバッいわ~やっぱりこれが一番癒されるわね」
レイカは何故か膝枕がお気に入りなようで、二人きりになると毎回おねだりしてくる。
軽いので苦にはならないが毎回するほどいいのだろうか?とは疑問に思う。
「ねぇ~ヨル~」
「うん?どうした?」
「私は幸せよ」
「ああ。それはよかった」
「ヨルは幸せかしら?」
「ああ。俺も幸せだよ」
俺の言葉にレイカが顔を上げる。
「本当に?ヨルがしたいことは全て私が叶えてあげる!だから、必ず相談して」
「はは、自分で出来ることは自分でするよ。でも、どうしようもなかったらレイカが俺を助けてくれ」
「もちろん」
レイカの大きな胸が俺の顔を抱きしめる。
「私の幸せはヨルを幸せにすることだから。忘れないで」
「ああ。ありがとう」
そのあとは食事をして一緒にいる時間を過ごした。
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