第94話 妹からの相談
青葉高校での二年生の生活が始まって、最初の仕事として五月までに応援団への入部要項を考えた。
二年生になったことで変わったあれやこれやの生活習慣に慣れる日々が続く中で、食事だけは家で取るように心がけている。
「それで、今話していたことがツキのクラスメイトの黄島愛莉さんの話なんだな」
「ええ。同じ兄を持つ妹として、どうしたものかと思ったの」
ツキのクラスメイトで、席が隣同士の友人が出来たことは嬉しく思う。
異常なブラコンであることも、貞操概念逆転世界ならではだと思うので納得できる。
ただ、悩みの方向性が特殊で、なんと返事をすればいいのか困ってしまう。
「つまりは、男性アイドルオタクだった兄が、アイドルの目的を聞いて元気をなくしているということか?」
「ええ。それにお兄様は、どうやら兄さんに対抗意識があるみたいなの。
青葉高校の二年生で文武両道容姿端麗全てを兼ね備えた優れている兄さんに対抗するなど無理があると思うのだけど。
兄さんが立ち上げた応援団=アイドル活動として捉えているみたいなのよ」
ツキの発言はツッコミたい気持ちをぐっとこらえて、俺は悩みに対して考えるように腕を組む。
黄島と言われても思い当たる人物が思い出せない。
会話の中では体育祭のときに絡んだそうなのだが、確かに話をした男子はいたが顔が出てこない。
「ライバルか……う~ん。そいつの能力にも寄るけど。ちょっと面白い企画があるんだ」
「面白い企画?」
「ああ。男子応援団に新入部員を募集するんだよ」
「確かに前にそんな話をしていたわね」
「ああ。黄島兄を入部募集に参加させるのはどうだ?」
「どういうことかしら?」
男子応援団の入部要項は極めて簡単で、男子応援団メンバーが気に入るかどうかだ。
その話をしているときに、ヨウヘーから面白い話を受けた。
【邪神様】のライバルになる人物はいないかというものだ。
セイヤとヨウヘーは裏方。
ハヤトはライバルと言うよりも、俺の補助として活躍してくれている。
そうなるとライバルとして売り出せる人物がいれば、今後の展開が面白いと言い出したのだ。
「なるほど。兄さんのライバル。それは面白いわね。
でも、アイリのお兄様がそこまでの人物なのか私にもわからないわ」
「ああ。俺も覚えてない。ただ、一人だけ目星をつけている男子生徒はいるんだ」
「兄さんのお眼鏡に叶う人がいるの?」
「ああ、ツキと同じクラスの男子生徒だと思うんだけど」
俺の言葉にツキはしばし考える素振りを見せるが首を横に振る。
「確かに顔が綺麗な男子が一人いるわ。
でも、兄さんに対抗できるとは思えないわね。
身長は、まぁ兄さんと変わらないぐらいかしら。顔は整っていてハーフっぽい彫りの深さはあるわね。
筋肉は……これは無さそうね。
肌も青白くて体調が悪そうに見えるし」
ツキ分析が入る人物、小金井綺羅を男子応援団へと考えていることはヨウヘーとセイヤには話している。
今後の部活動としての応援部分を彼に担ってもらいたいのだ。
「彼は女子が苦手なようなんだ。それの克服に一役買えればと思っている」
「どうして兄さんがそんなことをするの?」
「一つは、もったいないと思うからだ」
「もったいない?」
あれだけの容姿を持つ男子が女子に恐怖して生きていくことほどもったいないことはない。
それこそ普通の世界であれば、芸能関係の仕事をして一躍時の人になることも夢ではない人物なのに、貞操概念逆転世界に生まれたことで女性に恐怖して、女性を警戒して生きていくことになるのはもったいない。
「それにこれは実験の要素もある」
「実験?」
「そうだ。ヨウヘーが言ったライバルとしての存在とは別に男性が女性を克服して強くなれるのかの実験をしようと思っている」
幸い、男子応援団のメンバーは女子に対して恐怖を抱いていない。
唯一、セイヤにはトラウマがあったが、ヒカリさんやアスカの活躍で徐々に克服できつつある。
「なるほど。兄さんは色々考えているのね」
「そうでもないよ。ただ、少しだけこの世界に抗ってやりたくなっただけさ。ツキを含めてみんな凄いと思う。だけど、惰性に生かされているいるだけの男なんて、いつか価値を失ってしまう。それじゃダメだと思うから」
「兄さん。好きよ。兄さんからは生きる活力のようなものを感じる」
そう言ってツキが後ろから抱き着いてきた。
食事も追えて片づけをしながらソファーでくつろいでいたので、ツキが甘えてくるのはいつものことだ。
「タエ。片付けありがとう」
「いえ。いつもお二人と食事が出来るのは私の特権ですから」
そう言って横に座るタエ。
俺は幸せな時を過ごせている。
だけど、この状況を幸せだと感じられない世界はやっぱり貞操概念逆転世界なんだと思ってしまう。
ただ、俺はいくつも思っていた貞操概念逆転世界とは違うと思ってきた。
なら、この幸せを感じれる男子を増やすことは貞操概念逆転世界とは違うかもしれないけど。
それが正常である世界に少しでも貢献したい。
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