Side情夫 ー 1

《小金井綺羅》



 物心つくと、そこは匂いのキツい男性達が集まる場所だった。

 周りは男ばかりで生まれてから男しか見たことがなかった。


 男郎……風俗……男が身体を売り、女性がそれを買う。


 それを女風宿というそうだ。


 そういう場所だと知ったのは、もう少し成長を遂げたあとだった。

 まともな教育など受けたことのないボクには……優しい父だけがいた。



「キラ。人を恨んではいけないよ。私たちは女性達に生かされているんだ」



 父は高齢で60を越えてから子供が出来たそうだ。

 父を買い、子を成した外国の女性は子供を産むと姿を消してしまったそうだ。

 ボクは母に置いて行かれ、父が住む高齢の女風宿で暮らす者たちに育てられた。


 年老いた男性は仕事もなく、美しく若い男性のように女性たちに相手もされない。

 ただ、子を成す種としてしかみてもらえない。


 男性保護法?そんなもの法律という名の建前で、男性を女性が支配しているに過ぎない。

 ただ、父はそれでも良いと言っていた。


「人はどのように生きようと、生きていることが大事なんだと私は思う。


 死ぬまで生きて

 子を成して

 美味しいモノを食べ

 他の人に求められる


 そんな人生であるなら、それは幸せなんだよ」



 そう言って頭を撫でてくれる父が凄く好きだった。


 ボクの見た目は他の人と違って、髪は金色で瞳は青かった。

 顔立ちは父に似ているそうだが、髪や目は母の血を濃く受け継いだ。


 それはここ(女風宿)で生きる者たちには珍しく。


 また、男ばかりの場所に子供は珍しかった。

 興味本位で手を出そうとする危ない男性に何度遭遇したのかわからない。

 それは一度や二度ではなかっただろう。


 父が古参の存在として尊敬される人であったから守ってくれる人もいて、なんとか男性の中では上手く生きていくことが出来た。


 だけど、どうしても彼らでは止められない存在によって、悪意が私を襲った。


「えっ?こんなところに男の子?」


 それはボクが見る初めての女性だった。


 普段は、男性ばかりの屋敷の中で仕事の手伝いばかりをしていたのに、その女性は店の奥へと足を踏み入れてきた。

 普段であれば他の従業員が止めるのに、その日は何故か誰も居らず。



 その人はボクを見つけた。



「あなたは誰?」


「あら?ふふ、本当に可愛いわね。ねぇボク?お姉さんといいことしましょ」



 ボクは言われている意味がわからないまま、服を脱がされた。


 初めての女性

 初めての行為

 初めての不快感


 それら全てが怒濤のように押し寄せた。


 意識を失い。


 気づいたときには、女性はいなくなっていて父がうちわで扇いでくれていた。



「すまない」



 起きた私に父はただ一言だけそう告げた。

 何が起きたのかわからない。

 ただ、身体に残る女性の感触と不快感。


 それはボクにとって喪失感と倦怠感を与え、体調を崩す原因になった。


 それからしばらく体調が優れない日が続いて、身体がだんだんと成長するにつれて体調は落ち着いていった。



「キラ」



 ボクが成長を遂げ。

 父の髪が白く、しわだらけになる頃。

 二人きりで女風宿を後にする日が来た。



「父さんどこへ行くの?」


「これらかは別のところで暮らすんだ」



 国が定めた男性保護法によって定められた家を宛がわれ、父と二人で暮らす日々が始まった。


 父は歳を取り過ぎたため女風宿を追い出されたのだ気づいたのは、もう少し世間をしってからだった。


 ボクは父に教えられて勉強を始めた。


 今までしたことがない勉強はボクにとって遊びのようで楽しかった。



 国語

 数学

 理科

 社会

 家庭科



 生きるために仕事をしていた女風宿とは違う。


 知らなかった知識は面白くて、すぐに勉強に集中するようになった。


 父が買い物に行くときは必ず「絶対に誰が来ても開けてはいけないよ」と固く約束していたので、父の外出中は来客も外出もしなかった。


 ボクには勉強があったので、退屈することはなかった。


 そうして15歳の夏になり……大好きだった父がこの世を去った。


 父から歴史を学んでいたお陰で男性保護法についても聞いていた。

 そのため父の死を市役所に伝え、今後の生活をどうするべきか市役所の女性と相談することになった。


 やってきた市役所職員は40歳ぐらいの女性で、親身に相談に乗ってくれた。


 家はそのままに、だけど来年から高校生として学校に通うことが必要だと説明を受けた。

 また、親代わりにその女性がなってくれるということで、登録が必要だと言われた。



 言われるがままに手続きをして、高校進学を迎えた。



 進学が決まった日。



 親代わりだと言っていた女性は祝いだと言って豪華な食事を作ってくれた。


 ボクは美味しいご飯を食べれて幸せだった。


 ただ、食事を終えた後。


 凄く眠くなって、その後の記憶がない。


 いつの間にか眠ってしまって……気づいたら裸でベッドに寝ていた。



 いつか感じた不快感と嫌悪感を思い出してすぐにお風呂に入った。



 何が起きたのか確かではない……だけど……なんとなく理解出来てしまう……



 自然にお風呂場で涙が流れた……

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