side後輩ちゃん ー 1
《黄島愛莉》
わたくしの兄様は純粋な方です。
昔からそうでした。
一つの事に没頭すると、それに集中するタイプでした。
幼い頃、母から姉とわたくしに男性は特別な存在であると教えました。
わたくしは、最初こそ意味が分かりませんでした。
ですが、幼稚園や小学校に通っていくうちに男性を見る機会が無いことに気付きました。
先生や、同級生に男性を見たことがあるかと質問を投げかけると見たことがないと言います。
本当に男性は特別な存在なのだと知ることが出来ました。
家に帰ると無邪気に私を出迎えてくれる兄様……その姿はとても可愛くて愛おしいと思うようになりました。
兄様は特別な存在。
そう思うようになり、他の男性のことが気になったので調べると本当に兄様は特別でした。
兄様は勉強や運動など高い才能を発揮されておりました。
わたくしが得た情報では、男性は惰性的でほとんどの才能に乏しく。見た目も気にしない方が多いそうです。
姉が通い始めた中学では、少ないながらも男性がいるということで見学に行った際。
醜く太り、授業中だと言うのにお菓子食べ、先生の話を聞いてもおられませんでした。
わたくしは優しく話を聞いてくれる兄様をますます特別な存在として認識するようになりました。
他の男性はあまりにも醜く気持ち悪い存在なのだと思い込むようになりました。
わたくしが小学校に上がる頃……兄様はテレビに出てくるアイドル?と呼ばれる男性たちに興味を示されました。
明らかに兄様よりも見た目が劣る男性が歌って踊っているのを見て何が楽しいのかわかりません。
兄様が他の方々を見て世界の勉強をされるのは良いことだと思いはします。
そのためわたくしは気にもしておりませんでした。
ですが、兄様が高校生として初めて世界に飛び立つと……兄様は一人の男性の事ばかり話すようになりました。
黒瀬夜
何度その名を聞いたのかわからないほど、兄様から彼の名前を聞きました。
黒瀬夜は、アイドルを冒涜している。
黒瀬夜は、アイドルとして向き合っていない。
黒瀬夜のこういうところがダメなんだ。
兄様はきっと彼のことがお嫌いなのでしょうね……わたくしが一度、彼の排除を口にすると……
「兄様が彼をお嫌いでしたら、わたくしが彼を排除しましょうか?」
「排除?はは、アイリは面白いことを言うね。でも、彼との決着は僕が付けなければいけないんだ」
そう言った兄様はアイドルの研究を始めて、歴代のアイドル図鑑や、男性アイドルの売りやパフォーマンス。サービスの仕方などを分析してまとめるようになっていた。
意外にも兄様の勉強熱心なところが、アイドルの研究という形で身を結んでいました。
そして、いよいよ兄様がアイドルに会いたいと言い出しました。
男性アイドルに会うことは簡単です。
お金さえ払えば誰でも会うことが可能ですから……ですが、兄様には理想と現実を混同してほしくないと考えていました。
兄様が話題に上げる黒瀬夜なる男性の映像は、確かに他のアイドルに比べればダンスや歌は劣るかもしれません。
ですが、他のアイドルには無い輝きを放っているとわたくしはは思っていました。
母や姉に見せると食い入るように黒瀬夜の動画を再生していました。
兄様がしていることは本来必要のないことだと……無知なわたくしは思ってしまうのです。
何より、俗世にまみれた男性アイドルたちは……彼らの目的のために動いているのですから絶対に裏の顔を兄様は知ってほしくない。
「今日はついてきてくれてありがとう。アイリ」
笑顔で私にお礼を言う兄様は、どうして高校生になっても純粋なのでしょうか?
綺麗なお顔が笑顔を浮かべるなど、他の女性たちであれば赤面してすぐに惚れてしまうでしょう。
意外にも高校生活では、あまり女性たちが話しかけてくることは無いようなので大丈夫だそうです。
女性たちの話題は男子応援団の事ばかりで、兄様は可愛いマスコットのように扱われているのが話の節々から感じられました。
多少納得できない点もありますが、兄様が安全であれば良しとしましょう。
アイドルのライブが始まり、兄様は大興奮しておりました。
テレビで見ていた光景が、目の前で繰り広げられていることが嬉しいようだ。
わたくしはアイドルを見ているよりも、兄様を見ている方が絶対に楽しい。
いよいよライブが終わりを告げて、楽屋に向かうことになりました。
現在のトップアイドルと言われる二人組の楽屋を訪れると、瞳が濁った男性アイドルが兄様を歓迎して迎えます。
私は警戒を怠ることなく、奥に控える男性を見ていましたが、話が怪しい方向に行こうとしていました。
「ぼっ僕は将来アイドルになりたくて、お二人のようなアイドルになりたいっておもってます。今日のパフォーマンスも最高でした」
「うん。ありがとうね。君のような男性ファンは初めてだから嬉しいよ。あっそうだ。この後、打ち上げがあるんだけど。君もどうかな?君みたいな可愛い男の子が来れば他の奴らも喜ぶと思うんだ」
兄様なら受けてしまうだろう。
「ぜっ「申し訳ありません。この後は予定が入っておりますので」ん」
「そっか、それは残念だな」
私が断ると男性はあっさりと引き下がった。
私はどうやら警戒する相手を間違えていたようだ。
兄様の前に立って何かを言うことを阻止する。
「なぁ、お前はアイドルになりたいのか?」
引き下がった彼に変わって、ロングヘアーのもう一人がこちらに問いかけてくる。
「はい!将来はアイドルになりたいと思っています」
「……酔狂なことだ……一つだけ、アドバイスしといてやる」
私は何を言うのかと警戒心を強める。
「はい!!!」
「夢を見るな」
「えっ?」
「夢を見させる仕事だ。だから、お前が夢を見るのは分かる。だけどな、アイドル自身が夢を見るな。いいな」
「はい!ありがとうございます!」
「ああ。今日はもう帰りな。そっとの嬢ちゃんを連れてな」
「ありがとうございました!」
意外にも警戒していたアイドルからもたらされた言葉は、本当に兄様を思って発してくれた言葉だろ理解できました。
彼らの裏に何があるかはわかりませんが、少なくとも彼はまともな人間であると理解できました。
「アイリ。帰ろう」
「ええ。兄様」
ただ、私は兄様を陥れようとした人間を最後まで見つめて楽屋を出た。
あの男の顔を生涯忘れることはないだろう。
「アイリ、あの態度は良くないよ。それに僕は打ち上げに参加出来るならしたかったよ」
「それは申し訳ありません。兄様」
「うん。分かってくれればいいんだ。でも、アイドルってやっぱり凄かったね。格好良かったよ」
「兄様の方がずっとカッコイイです」
「はは、そう言ってくれるのはアイリだけだよ。ありがと」
一時ではあるが、純粋な兄を守ることが出来た私はホッと胸をなでおろした。
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