Sideライバル ー 2

《黄島豊》



 彼らを正す。


 僕は信念を持って彼らに本当のアイドルを教えなければならないと思った。


 そのためにも僕は本当のアイドルを知らなければならない。


 僕は母にお願いして、男性アイドルに面会出来るようにアポを取ってもらった。



 彼らがドームでライブをすると言うので、ライブを見た後に彼らと話しが出来る。


 僕は喜びに打ち震えながら、ライブをVIP席で観覧した。



 5組のアイドルグループが登場するビックイベントは大勢の観客が入り、その熱気によって最高潮の盛り上がりを見せていた。



 常に笑顔で、歌って、踊っている姿は素晴らしく。



 それぞれの個性によって踊り方や雰囲気を変えて彼らは素晴らしいパフォーマンスを見せてくれる。


 歌の技術も高く。感動して泣いているお客さん姿がチラホラと見えている。



「やっぱりアイドルは凄い!こんなにも大勢の人々を感動させているんだ。彼ら一人一人のレベルも高くてプロ意識もある。これなんだ。本当のアイドルっていうのは」



 僕は3時間というライブ時間を感動で何度も涙を浮かべてしまう。



「兄様大丈夫ですか?」



 一緒にライブに来てくれていた妹が心配そうに聞いてくれる。



「ああ。もちろんだよ。僕はこれほどの感動を覚えたのは、始めてテレビで男性アイドルを見て以来かもしれない」


「それはよかったですね」


「ああ。だからこそ、僕は……本物を彼らに教え無ければならないだろうな」


「本物ですか?」



 妹の疑問に僕は応えないままライブを最後まで楽しんだ。



 ライブが終わるといよいよアイドルに会うことが出来る。

 緊張と感動でマトモに話が出来るが不安で仕方ない。



「ライブ終わりにお邪魔してしまいすみません」



 僕が楽屋に入ると一番人気だという二人組アイドルが待っていてくれた。



「君かい。僕らに会いたいって子は、男の子なのに珍しいね」



 出迎えてくれたのは本物の王子様じゃないかと思うほど優しい雰囲気をした男性だった。


 歳は僕よりも二回りほど上に見えるが、物腰が柔らかくて大人の男性と言った印象だった。

 これまで同年代の男性にしかあったことがない僕からすれば憧れの男性に会えた気がして顔が熱くなってしまう。



「ぼっ僕は将来アイドルになりたくて、お二人のようなアイドルになりたいっておもってます。今日のパフォーマンスも最高でした」


「うん。ありがとうね。君のような男性ファンは始めてだから嬉しいよ。あっそうだ。この後、打ち上げがあるんだけど。君もどうかな?君みたいな可愛い男の子が来れば他の奴らも喜ぶと思うんだ」



 こんな一ファンである僕を打ち上げに誘ってくれるなんて、なんていい人なんだろう。

 それに打ち上げに行けば他のアイドルさんの話も聞けて一石二鳥じゃないか。



「ぜっ「申し訳ありません。この後は予定が入っておりますので」ん」



 僕が承諾を口にする前にアイリが断ってしまう。



「そっか、それは残念だな」



 あっさりと引き下がった彼に申し訳なく思うが、アイリが僕の前に立って何かを言うことができなくなってしまった。



「なぁ、お前はアイドルになりたいのか?」



 引き下がった彼に変わって、ロングヘアーのもう一人がこちらに問いかけてくる。



「はい!将来はアイドルになりたいと思っています」


「……酔狂なことだ……一つだけ、アドバイスしといてやる」



 トップアイドルからのアドバイスと言われて僕は胸が張り裂けそうなほど嬉しくなった。



「はい!!!」


「夢を見るな」


「えっ?」


「夢を見させる仕事だ。だから、お前が夢を見るのは分かる。だけどな、アイドル自身が夢を見るな。いいな」



 結局、意味はわからない。


 わからないけど。大切なことを教えてもらえた気がして僕は嬉しくなる。



「はい!ありがとうございます!」


「ああ。今日はもう帰りな。そっとの嬢ちゃんを連れてな」


「ありがとうございました!」



 思っていた時間よりも短くなってしまったけど。


 彼らもライブ終わりで疲れているのだ。


 この後、打ち上げもするのだから僕らは邪魔になってしまう。



「アイリ。帰ろう」


「ええ。兄様」



 アイリはずっと最初に話しかけてくれていたアイドルさんを見ていたけど。


 僕はアイリを連れて楽屋を後にした。



 車に乗り込んでアイリが失礼なことをしたと叱ってしまう。



「アイリ、あの態度は良くないよ。それに僕は打ち上げに参加出来るならしたかったよ」


「それは申し訳ありません。兄様」


「うん。分かってくれればいいんだ。でも、アイドルってやっぱり凄かったね。格好良かったよ」


「兄様の方がずっとカッコイイです」


「はは、そう言ってくれるのはアイリだけだよ。ありがと」



 僕はアイリを愛でながら家路を急いだ。



 次に日から、僕は男子応援団の動向を探ることにした。



 彼がどんな活動をしているのか、ダンスや歌の練度。

 どうして作られて、彼らがどんな活躍をするのか、常に監視することにした。



 そこで見えてきたのは、黒瀬夜という人物だった。



 男子応援団団長にして、一年A組窓際の最上位に座る男子。



 身長は180㎝を越えている。

 体重は75㎏前後。

 趣味は身体を鍛えることで、格闘技経験者


 男性にしてはアグレッシブな奴で、筋肉のボリュームもある。

 さらに勉強でも、女子の上位人と変わらない成績を出していることが調べでわかった。


 性格は温厚で優しく。ただ、時折見せるミステリアスで謎めいた行動が女子達の視線を奪っていく。



「黒瀬夜……確かに彼には天性のカリスマ性があるのかもしれない……」



 僕は男子応援団を調べる内に黒瀬夜について詳しくなっていく自分に戸惑いながらも、彼を知れば知るほど……どうしてアイドルではなく男子応援団なのか疑問が浮かんで仕方ない。



「彼の才能は……確かに輝いているだけど。間違った方向に使っているなら僕が正さなければならない」



 これは僕に与えられた使命だ。


 そのためにも彼の人となり、実力をもっと知らなければならない。


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