sideライバル ー 1
《黄島豊》
僕が物心ついた頃。
世界は僕のためにあると思っていた。
家族は整った容姿と裕福な環境。
世話をしてくれるメイドが常に三人はついていた。
メイドたちが、着替えや食事をさせてくれていた。
中学までは外は危険だということで、家庭内学習として家庭教師が来ていた。
運動は、母が用意してくれた運動施設で家族と共に行う。
全ては僕の想い通りになる世界……僕が世界を知ったのは、テレビだった。
姉が見ていたテレビ番組。
そこに映し出された男性アイドル。
彼らが歌って踊る姿は僕にとって、とても煌びやかな世界のように思えた。
僕もあんな風にキラキラしたところで歌って踊ってみたい。
いつしかアイドルを見るのが僕の楽しみになっていた。
「兄様」
一つ下で、可愛く僕を大好きなアイリは僕にとって癒しの対象である。
「どうしたのアイリ?」
「兄様は、アイドルが好きなのですか?」
「うん。僕もいつかアイドルになりたいって思うんだ」
「兄様なら絶対になれると思います。兄様は誰よりも綺麗な顔をしていて、カッコ良いのです」
いつでも僕を無条件で褒めてくれる妹はとても可愛い。
男性が少なくなっている世界であることは、家庭学習の先生に習って知っている。
だけど、妹も姉も僕を大切にしてくれていて女性を嫌だと思ったことはない。
運動も二人に比べれば僕の方が動けるし、力も強いのでどんな運動をしても勝ててしまう。
身体が成長して高校生になった。
高校を卒業した後はアイドルになることを目指していくつもりだ。
そのためにも同年代の他の人たちと交流することは僕を成長させるために必要なことだと思って、僕は青葉高校に入学を果たした。
青葉高校は男性も多く入学するということで、家族が言うように危ないことは少ない。
何より男性が車で送り迎えをされても、誰も変な目で見ないところがありがたい。
僕の家族は過保護なぐらい僕のことを大切にしてくれている。
それは嬉しいことなのだけど少し重荷になっていた。
入学式の日に発表された僕のクラスは進学クラスの1ーBだった。
てっきり1ーAになると思っていたので少しばかり拍子抜けしてしまう。
青葉高校は女子は成績によって席が決められ、男子は女子人気が高くなる男子を学校側が決めて振り分ける。
そのため1ーAに所属する男子は、女子からの人気が高くなりやすい者たちが振り分けられる。
入学当初から不満はあった……それが嫉妬になったのはいつ頃からだろうか……
「なぁ聞いたか?男子が部活を作るらしいぞ」
それは隣の席に座る男子生徒から聞いた話だった。
「男子応援団?」
「ああ、なんでも女子を応援するとか言って、女子に媚びる部活らしいぞ。1-Aの奴らは何を考えてるんだろうな。女子に媚びるとかキモイとしか思えねぇよ」
クラスメイトの男子は女子を気持ち悪い目で見る人種なので、1-A男子がすることが理解できないようだ。
僕としては変わったことをする奴がいるんだなって思う程度で気にも留めていなかった。
だけど、次第に男子応援団の話題は青葉高校全体に広がっていた。
実態が見えないが話題に上がる噂話は女子だけでなく男子の間でも広がっていった。
「なぁ……男子応援団ってどう思う?」
最初は批判していたクラスメイトは、僕がアイドルを気にするように、男子応援団を気にして話題に出すようになった。
「どうって?」
「だから、あいつらが噂されてて面白くないよなってことだよ」
媚びることはキモイ。
だけど、自分のクラスの女子まで他の男の話をしているのは面白くない。
彼の心情はそんなところだ。
席が隣なこともあり、良く話す相手であり男子としては初めて出来た友達なので大切にしたいと思うが、少し考え方が合わない。
「興味ないよ。他の人は他の人だからね」
「ふ~ん。キジマは余裕だな。確かにお前は女子たちからも人気があるしな」
嫌味というか、女々しく感じる彼の言動がどうにもうっとうしいと感じてしまう。
「そんなことよりも男子応援団って、結局何しているの?」
「おっやっぱり興味があるのか?なんでも、歌って踊っているみたいだぞ」
「はっ?それってアイドルがするんじゃないの?」
「まぁ、男子応援団なんてそんなもんだろ?」
いや!違うよ!
応援団の定義は知らないけど。
彼らがやっていることはアイドルの仕事と同じじゃないか……僕は腹が立つと同時に彼らがどんなことをしているのか興味を持った。
「ふ~ん。今度はどこでするのか分かってるの?」
「そんなの知るわけないだろ」
「そっか」
「あっ、そういや女子がSNSで発信してるとか言ってたな」
僕は家に帰ってから男子応援団を調べた。
newtubeに投稿された彼らのパフォーマンスはアイドルそのもので、まだまだ粗削りながらも視聴者の反応がかなりよかった。
ただ、僕は彼らに対して……怒りが湧いてきた。
「こんなのアイドルじゃない……」
僕が知っているテレビで見るアイドルはキラキラしていて洗礼されていた。
彼らのように青臭くて……不格好な姿など見せていなかった。
「僕が本物のアイドルを教えてやる」
彼らの動画を見て、僕は偽物に思い知らせることを考えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます