第83話 全員で
レイナさんとの二人きりの会話は、確認だけで危ないことは何もなかった。
むしろ、レイカさんのお母さんは当主として毅然とした態度で家のことを考えていただけなのだろう。
「それでは行きましょうか」
レイナさんに促されて立ち上がると、レイナさんが腕を組んできた。
レイカよりもさらに大きな胸元の感触が腕に伝わってくる。
着物の感触を固く感じながらも暖かさが伝わってくる。
「えっ?あの?」
「いいのです。エスコートを」
「あっはい」
俺は言われるがままにレイナさんをエスコートして廊下へと出た。
廊下には、レイカとキヨエさんが待っていた。
「母上!」
腕を組む俺とレイナさんを見て、レイカが驚いた声を出す。
「レイカさん。うるさいですよ」
「ですが~もう」
レイカは諦めたのか、レイナさんとは反対の空いている腕に腕を絡ませてくる。
両方から胸の圧力が俺の腕を包み込む。
「どうして私のヨルと腕を組んでいるのですか?」
「良いではありませんか……レイカの婿になるのですから、私の義息子ということです」
「婿!!!そんな話を!」
レイカは嬉しそうな戸惑うような声を出す。
「キヨエ」
「はい。当主様」
「ヨル君の彼女たちを連れてきているのかしら?」
「はい。帝都にいるお一人もまもなくこちらへ」
「そう。それでは皆さんを広間へ」
「はっ!」
キヨエさんが廊下を音もなく去って行く。
俺は何が起きているのかわからないまま、東堂親子に腕を取られて歩き出す。
20人くらいが余裕で入れそうな部屋へ到着すると、上座へとレイナさんとともに座らされる。
レイカは一段低い位置に座り、俺も移動しようとすると……
「ヨル君は私の隣です」
何故か肩が触れあう距離に座っている状態で、みんなが来るのを待つことになり、レイカが凄い目で睨んでいる。
後を追ってきていた、ツキ、タエ、テルミ、ランが到着してそれぞれの席に着かされる。
レイカを上座にして向かいにツキ、ラン、タエ。
レイカの隣にツユ、テルミが腰を下ろす。
ツユちゃんは、元々この屋敷にいたので全員が来るのを出迎えてくれていたそうだ。
最後に到着したユウナが、この場の状況がわからないままタエの隣に腰を下ろす。
「ふむ。七人。これで全部ですね」
キヨエさんがレイナさんに全員が集まったことを伝えて、レイナさんが話を始める。
「この度、我が家の問題で皆さんには多大なご迷惑をおかけしたこと。まずはここに謝罪します」
レイナさんは俺にしたときのように、彼女たちにも頭を下げた。
その様子にレイカが一番驚いた顔をして、ユウナは事情がわかっていないようで他の者達の顔を見ていた。
「そして、先ほどヨル君と話をして、彼はレイカとの付き合いは遊びではないと言ってくれました。そこで、正式に東堂家の婿として迎えることを決定いたしました」
婿という言葉にツキが立ち上がる。
「兄は黒瀬です。婿など!」
「あなたはヨル君の妹さんなのね。
もちろん、あなたが言うように黒瀬の姓を捨てなさいと言っているわけではありません。ですが、結婚をするにあたり家の格は明確に存在します。
東堂の者というだけで、彼に今回のような危険な目に遭わせる確率は低くなることでしょう」
レイナさんの言葉に、さすがのツキも今回の件で少し思うところがあったのか引き下がるように座り込む。
「昔ではありませんので、正妻どうのこうのというつもりはありません。
ですが、妻達が平等とはいかないまでも、ヨル君にちゃんと愛してもらえるようなルールは必要だと思います」
レイナさんの発言に全員が同意するような顔を見せる。
「ヨル君がレイカの夫となってくれた暁には……ヨル君専用タワーを作ろうと思います」
レイナさんの発言の意味がわからなくて、俺が呆然としているとキヨエさんから拍手が起きる。
それに続いて、レイカ、ツユと拍手をするので、タエやユウナも拍手を初めてします。
「ありがとう。ありがとう。つまりは、昔の大奥の再興ということです」
大奥と言われて、徳川家の妻達を思い出す。
「えっ?」
「ヨル君専用のタワーマンションを建てます。
そこに住まうことが出来るのはヨル君の許可のあるものだけです。
もちろん、妻でもいいですし、その家族や、ヨル君の友人など。
ヨル君が住んでいて、満足できる環境を作ります」
もの凄くお金のかかりそうな話になってきた。
しかも、大奥って確か多数の女性を家に閉じ込めるような話だったような?
「もちろん、女性達もヨル君も生活は自由です。
好きなように生きて、好きなことをしてもらえればかまいません。
ただ、帰ってくる場所が同じ。
それだけで近くに好きな人がいる幸せを感じられることでしょう」
それぞれが想像しているのか、考え込む様子を見せる。
俺もそんな場所があったのならどうなのだろうと考える。
実際、タワーマンションの上層に済んでいて、同じ階にユウナの家がある。
そこにレイナやテルミも住んでいると思えば、確かに気軽に会いに行けていいのかな?
「東堂家は、ヨル君の後ろ盾となります。彼のしたいことを支えます。
皆さんはいかがですか?ヨル君と生涯を共にする決意はありますか?」
それぞれまだ若い。
ツキに至っては俺よりも下なのに酷な質問に思える。
「お母様。私は是人さんよりもヨルを選んだ身。なんの迷いもありません」
「ツユも……ヨルじゃんないと嫌」
「よっヨル君がいいです」
「私もそうかな。今回のことでヨルが居なくなるって思うと力が抜けちゃうからヨルの側にいたい」
「私はヨル様の盾です。一生側にします」
「ヨルは私の!絶対離れない」
六人が決意表明するように声をあげていく。
最後にツキへと視線が集中する。
「何を当たり前のことを言っているんですか?兄妹はずっと家族です。側にいるのが当たり前でしょ」
ツキの言葉にレイナさんは頷いて、話し合いに幕を閉じた。
………
あれ? 俺タワーマンションにOKしてないけど……俺の意見は?……
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あとがき
第四章前半終了です。
楽しんでいただけていますか?
この話も随分と長くなってきました。
自分の中での完結も見えてきましたので、今しばしお付き合い頂ければと思います。
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