第74話 前払いを頂きたいのです

 ある日の放課後。



 レイカさんに呼び出されて俺は図書室にやってきた。


 いつもは生徒会室か、ランチを一緒にすることぐらいしかできないので、図書室で待ち合わせは初めてのことだ。



「珍しいですね。図書室なんて」


「そうですね。私もあまり来たことがないので、新鮮です」


「でも、放課後なのに生徒会室に行かなくていいんですか?」


「ええ。もう12月に入ったので、引継ぎもほとんど終わってしまいました。今は在籍はしていますが、仕事のほとんどをテルミ新生徒会長へ移行を終えてします」



 生徒会を引退する。


 とても不思議な響きだ。


 ずっとレイカさんが生徒会長で……それが続いていくと思っていたのにもうすぐそれが終わりを告げてレイカさんは卒業してしまうのだ。



「お疲れ様でした」


「はい。三年間生徒会役員として務めたので、それが終わると思うとなんだか不思議な気分です」



 図書の一角、誰も来ない奥へと進みながら二人は声を潜めて話をする。


 放課後の図書室は人が少なくなっている。


 青葉高校の図書室は、図書専用の建物が建てられており、三階建てのかなり広い作りになっている。


 奥へ入ってしまえば、誰も近寄らないデッドスペースになっているということだ。



「ここでいいでしょうか?」


「今日はどうして図書室なのか教えてくれるんですか?」


「ええ、青葉高校の図書の閉館時間は夜22時です。

 運動部の子が部活終わりに借りた本を帰しに来ることも考慮してのことです。

 さらに外から聞こえてくる音を遮断するために防音設備も音楽室以上なんですよ」



 図書室の説明してくれている間に、レイカさんは一冊の本と取って、ブラウスの胸ポケットから眼鏡を取り出す。


 綺麗な顔をしているレイカさんにメガネが良く似合っている。



「ヨルは現世の記憶を持ち。女性への嫌悪感を持ってはいないんですよね?」



 本を閉じて眼鏡越しに俺を見るレイカさん。



「はい。他の男子に比べればですが、ヨルとしての記憶もあるので、ガツガツしているとは言い辛いです。

 でも、女性が苦手とか、女性に触れたくないとは思っていません」



「そう……前に年末年始はお会いできないと伝えていましたね」


「はい」



 レイカさんとツユちゃんは家の用事があるので、会えないと言っていた。



「ですから、今日はその寂しい時間を紛らわせる前払いを頂きたいのです」



「前払い?」



「ええ。仮の彼女でもいいですよね?」



 そう言ってレイカさんが近づいてきて、俺は本棚を背にして迫られる。


 レイカさんの大きな胸が俺の胸に当たりブラウス越しに互いの体温を感じ合う。




「ヨル、私達はいつも男性を求めています。

 ですが、それは誰でもいいと言うわけではありません。

 中にはそうなってしまった女性もいるでしょうが、私は違います」



 レイカさんの心音が伝わってくる。


 レイカさんの髪からいい匂いがして、話すたびに吐息が当たる。



「どう……違うのですか?」


「私は生涯あなただけ……あなただけに触れてほしい」



 レイカさんが俺の手を取って腰へと当てる。



「胸が大きいので太っているように見えますが、どうですか?」



 太っているなど思ったことなどない。


 腰は引き締まって細く。


 お尻はまた胸と同じくボリューム感溢れる曲線を描く。



「凄く細くて、綺麗だと思います」


「なんです。その感想は」



 レイカさんが恥ずかしそうに笑っている。



 スイッチが自分の中で切り替わるのが分かる。



「レイカの心音が胸から伝わってきて、少し汗ばんできてるね」



 首筋に汗が滲む。



「髪から良い匂いがする。レイカの匂いだ」



 匂いを嗅ぐなど変態チックである。



「なっなんだ……う」



 レイカが何かを言う前に眼鏡をはずして唇を塞ぐ。


 二度目のキスは俺から……



「……今は黙って」


「ハァ」



 漏れる吐息……腰に置かれていた手をお尻から太ももへと滑らせる。


 レイカさんの柔かな肌の感触が伝わってくる。


 身体は熱く火照って……



「レイカ」


「はい」



 貪り合うように何度も何度もキスをして、身体を離さないように抱きしめ合う。


 図書館ではしてはいけない行為であることは分かっている。



 だけど、止めることが出来ない。



 甘い匂いが鼻孔をくすぐりレイカと溶け合うように触れ合う。



「誰かいますか???」



 そんな声で我に返るまで……二人は情熱的にキスを交わした。



 声を聞いて二人はしばし固まってしまう。


 しばらく大人しくしていると、足音が遠ざかっていく。

 窓から見える外は暗く。

 それでも確認すれば、消灯には早い時間だった。



「ハァーここは生徒会の極秘場所なんですけどね……」



 小さな声で何かを呟くと、レイカは少し残念そうな顔をして離れて服を整える。



 燃え上がった気持ちと……体はどうすればいいのだろう……



「ヨル。ごめんなさい。今日はここまでです。チャンスがあればいずれ」



 レイカさんは座ったまま立ち上がれない俺にキスをして立ち去っていく。



「まだ……そのときじゃないってことかな?」



 もしも、初めての相手がレイカなら……凄く幸せだけど……焦らないようにしないと……

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