第73話 ご飯を食べるのは大勢で

 昼休憩に入ると、ツユちゃんが振り返る。



「ヨル、お昼いく?」


「ああ。今日もあるんだよな?」


「ある」



 青葉祭以降、昼休憩はツユちゃんたちと食べることになっている。



「セイヤ、行ってくるわ」


「うん。机使わせてもらうね」


「ああ。好きにしてくれ」



 セイヤも倉峰以外の女子たちと食事をするために、俺の席とツユちゃんの席を使っている。



 ツユちゃんを廊下を歩いて生徒会室に向かうと、その隣にある空き教室では、すでに昼食の用意が成されていた。



「え~と、今日も凄いね」



 教室の扉を開けると、そこは……レストラン?だった。



 床には豪華な絨毯が引かれ、豪華なテーブルには四脚の椅子が並べられる。


 なぜカウンター式なのか聞くと……



「ヨルの横に二人座れるからよ」



 とレイカさんが当たり前のことのように話してくれた。


 レイカさんと過ごせるのも、あと少しなのでレイカさんが隣。

 ツユちゃんとテルミさんが交互に入れ替わることで毎日の席替えが行われている。



「今日は洋の鉄人に来てもらったわ。ヨルの好きな物を頼んでいいからね」



 俺はいつもここで止まってしまう。


 まず、鉄人ってなんだろ?


 昨日は和の鉄人。その前は中華の鉄人。その前の前はピザの世界一位とか……毎日、贅沢な食事を取り過ぎて太ってしまいそうだ。



「あっあの。別に凄くありがたいんだけど。

 普通に食堂の料理でもいいんだけど」



 前にそんなことを言うと、レイカさんとツユちゃんの背後に雷が落ちたような演出が流れた。



「そうよね。ヨルはこんな料理食べたくないのね」


「そうなの?ヨルは庶民の食事が良い?」



 庶民ってなんか久しぶりに聞いたよ。

 そんなこと言う人たち本当にいるんだね。



「えっ?えっ?」



「でもね、ヨル。私達と付き合うということは上流階級の生活に慣れることも覚えてほしいの。これはそのための練習だと思って!」


「そうそう。私の夫として発表するときにヨルが恥をかかないための練習だよ」



 二人に詰められて仕方なく頷いてしまった。


 それからの対処法としては……



「おまかせで」


「ふふ、ヨルも出来るようになったわね」



 レイカさんはわかっているじゃない的な顔で満足しており、ツユちゃんも頷いてくれる。


 同じ立場だと思っていたテルミさんは……



「ふふふ、いつも美味しいご飯、幸せです」



 メッチャ幸せな顔で食べている。

 礼儀作法も完璧なのが、なんだか憎い。


 なので、隣に座ったときはたまに太ももに手を置いて擦るのだ。



「ふぇ!」



 そうすると恥ずかしそうな顔をしてプルプルと震えて俺を睨む。



「テルミは食べる姿も可愛いよ」



 耳元で囁くと、俯いて顔を赤くするのが可愛い。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 最近は昼食が豪華でボリューム感があるので、どうしても夜は庶民的で家庭的な料理が食べたくなる。



 そんなことをタエさんに愚痴ると……



「かっ家庭料理でいいなら。得意だよ?わっワタスが作ってあげようか?」


「えっ、いいの?煮物とか食べたいんだけど」


「メッチャ得意だよ」



 タエさんが目をキラキラさせて、得意と言ってくれたのお願いしてみた。


 家に招き入れて、調理器具や調味料。

 冷蔵庫の中や貯蔵している食料を説明する。



「うん。大丈夫だと思う!」


「本当にいいんですか?足りない物があれば買ってきますけど」


「ううん。今日は簡単なモノを作るから。それよりもヨル君は着替えてきて」


「じゃっじゃあお言葉に甘えて」



 結局、ご飯の炊き上げ時間もあるということで、俺はシャワーを浴びることにして、お風呂から上がると嗅いだこともない美味しそうな匂いが部屋中に広がっていた。



「めっちゃいい匂い」


「まだだよ。ふわっ!ミステリアスイケメンだべ!あっダメだよ。ちゃんと服着てけろ」



 俺は言われて、下だけ履いてバスタオルを肩にかけている状態の半裸状態だった。



「すいません」



 貞操概念逆転世界であることを忘れていた。

 タエさんだから耐えてくれたけど。

 ユウナだったら、前みたいに襲われていたかもな?



「きょっ今日は、冷蔵庫にある物だけだけど……」



 改めて服を着替えて待っているとタエさんが料理を並べ始める。


 手伝って並べ終えた料理を見て、改めて感心してしまう。


 冷蔵庫にこんなもの入っていたかな?そう思うぐらい具沢山だった。


 俺希望の煮物は、ごった煮だった。

 肉の旨味と醤油と砂糖の味付けが最高に美味い。


 茶碗には鮭の炊き込みご飯


 お椀には大葉とキノコのすまし汁


 小鉢に梅肉と山芋の短冊。きゅうりの酢の物の二品が並ぶ。



「凄い!凄いよ。タエさん」


「あれ?ご飯?」



 ツキも帰ってきて、ヨルはタエさんとツキと三人で食事を食べる。



「これ、タエさんが作ったんですか?」


「そっそうなの。お口に合うといいんだけど」


「凄く美味しいです。食べたことない味ばっかり。これぞ田舎の味?……凄い美味しい」



 ツキも脱帽するほどの腕前を見せるタエさんの料理はどれも美味しかった。


 本当に家にあるものだけで作ったとは思えないほどだ。

 味がしっかりしていて旨い。


 昼に食べた料理人さんの料理も、もちろん美味いのだけど。


 タエさんが作ってくれる手料理は格別の旨味があるように思う。



「あ~こんなに美味い物を毎日食べられるって幸せだな。タエさん。俺のために毎日ご飯を作ってくれたら嬉しいです」



 俺は何の気も無しに告げた言葉にタエさんが顔を真っ赤にしていた。



「あっ」


「兄さんは、昔と違ってデリカシーが少し足りていませんね。まぁ、それも素敵ですけど」



 顔を真っ赤にしてモジモジするタエさん。

 冷たい眼差しを向けた後にやれやれと言った感じで諦め顔をするツキ。



 彼女たち過ごす日々が楽しくて、こんなにも食事が楽しいと思う日々がずっと続けばいいと思う。

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