第67話 青葉祭は派手に ー 4
テルミ先輩……ユウナ……ランさん……
三人の女性が浮かんでは消える。
ランさんは自分の目標のために頑張っていて、なかなか会うことが出来ない。
多分?彼女ではあると思うけど。
この世界はハーレム。つまり一夫多妻制が認められているので重婚も出来てしまう。
カッコよくて大好きなランさん。
可愛くてイタズラしたくなるテルミ先輩。
ずっと側にいて俺を支えてくれたユウナ。
三人の女性が俺の中で浮かんでは消えていく。
「やっと見つけました」
そんな俺に声をかけたのは、小さな転校生ことツユちゃんだった。
「ツユちゃん。どうしたの?」
「どうしたではありません。クラスの出し物を見に来てくれると言っていたのに全然来ないので探しに来ました」
そういえば予定がなければクラスの出し物を見に行くとクラスメイトに告げていた。
色々有って忘れてしまっていた。
「ごめん。ちょっと忙しくてね」
「……別にかまいません。それよりもどうですか?」
どうと言われて始めてツユちゃんの衣装が制服ではないことに気づいた。
緑色のドレスに羽根。それに頭をティアラをつけた妖精の姿をしている。
「凄く可愛いね。妖精さん?」
「そう。ティンカーベルの衣装よ」
「うちのクラスはコスプレ喫茶なの?」
「うん。だからヨルに見てほしくて」
肩や足が露出して、小さなツユちゃんの身体であってもセクシーな印象を受けてしまう。何故か罪悪感が沸いてくるけど。同い年なので悪いことではないはずだ。
「どう?」
クルッと回ると、可愛いお尻が見えてしまいそうだ。
「あっいや。凄く似合っていると思う。可愛いツユちゃんが妖精になったと思うと納得だし」
「そう?ならいいわ」
ツユちゃんは褒めたことに満足してくれたのか、頬を赤く染めていた。
「ねぇヨル。時間があるなら少し青葉祭を一緒に回ってくれない?」
「もちろんいいよ」
ユウナと分かれてからもそれほど時間が経っていない。
何より、青葉祭は夜まである三部制なので、まだまだ時間があるくらいだ。
「ありがとう」
ツユちゃんにお礼を言われて普通科の校舎へと向かっていく。
「こっちに行きたい場所でもあるの?」
「ある」
そう言って向かった先は、リラクゼーションルームと書かれた教室だった。
「リラクゼーションルーム?」
「そう。入ろう」
ツユちゃんに誘われるままに教室内に入ると、四つの個室に教室が間仕切りされていた。
個室の中にはベッドが置かれていて、寝ていたり、休憩していたりと要は休憩室なのだと理解する。
「ツユちゃん疲れたの?」
「違う……最近、ヨルは忙しそうだった」
PV撮影。歌の練習。演技指導にダンス指導。
確かに青葉祭を迎えるまでハードな日々を送っていた。
「まぁ確かに」
「だから、今日はヨルを癒やしてあげる」
「俺を?」
「うん」
そう言われてベッドの上にうつ伏せで寝かされる。
「へぇ~息抜きもあるんだね」
丸い穴の空いた枕から息をしやすいようにベッドにも穴が空いてある。
「いきます。痛かったら言ってね」
「えっ?何するの?」
俺が問いかけるよりも早く。
ツユちゃんの指が俺の背中を押してくる。
急に来た苦痛と快楽に一瞬力を入れてしまう。
だけど、すぐに気づいて力を抜くとまたも快感が襲ってきた。
「つっツユちゃんこれは?」
「マッサージ。ヨルの固い筋肉をほぐさないとダメ」
それからツユちゃんが丁寧に全身をマッサージしてくれる。
絶妙な刺激が背中から腰。腰から足へと移動していって気持ちよくなっていつの間にか眠ってしまっていた。
テルミ先輩やユウナのことを考えて頭が疲れていたのだろう。
睡眠を取ると凄くスッキリすることが出来た。
ふと、気づいて僕は柔らかい物の上に頭を乗せている感触に気づいた。
「ヨル。起きた?」
頭上から聞こえてくるツユちゃんの声に顔を上げれば、ツユちゃんの胸と顔が僕を見下ろしていた。
「ごっごめん。寝てしまって」
「ううん。いいよ。疲れていたから仕方ない。身体も硬くなってた」
言われて身体を確認すれば、確かに寝る前よりも軽くなっている気がする。
「武道の一貫でマッサージも習って、得意」
俺が寝たことが満足だったのか、ツユちゃんが嬉しそうな顔を見せる。
「ねぇ、ヨル。このまま聞いてほしい」
「うん。なに?」
「私は田舎から夫を探しに来たの」
夫?つまり結婚相手ってことかな?ツユちゃんは弟さんのためにこっちに来たって行っていたけど。他にも目的があったんだ。
「男性は少ないから大変だね」
「ううん。そういうんじゃないの。夫の心当りは一人しかいないの」
「以外だね。ツユちゃんが心に決めた人がいるってこと?」
驚いて膝枕から身体を起こしてしまう。
小さい身体とは裏腹に太ももは柔らかなくて安心感があった。
「そう。目の前に」
「えっ?」
「ずっとヨルを見てた。ヨルの周りには可愛い女の子がたくさん集まってくる」
ツユちゃんの言葉に、俺はまた三人の顔が浮かぶ。
「本当は私だけの夫になってほしいと思ってた。
だけど、ヨルはツララとも楽しく話をしてくれて、大きなモニターでみんなから注目されてて……優しくて人気者」
そうなのかな?色々な人に助けてもらって、ここまできたから実感が沸かないけど。
「だから……ヨル。ヨルが大勢の女の子を選んでも良いよ。その代わり私も選んでほしい」
「えっ?」
「他の男の子じゃ嫌。ヨルが良い。好きよ」
ツユちゃんはそう言って俺にギュッと抱きついてきた。
小さなツユちゃんの身体は震えていて、まだあまり知らない彼女が凄く勇気を絞って言ってくれているのがわかる。
「ツユちゃん。ありがとう。ただ、答えは明日まで待ってほしい」
「明日?」
「うん。伝統なんだって、青葉祭で想いを告げる女子。それに後夜祭で応える男子」
俺の言葉を聞いてツユちゃんは抱きついたまま少し黙ってしまう。
「……なんだか素敵ね」
そういって離れていくツユちゃん。
「わかった。待ってる」
どこか無表情っぽい印象を受けるツユちゃんだけど。
待ってると言ってくれた顔はとても幸せそうで可愛かった。
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