第66話 青葉祭は派手に ー 3

呆然とベンチに座りながら、青葉祭の屋台を見ていると、青い髪の水着美少女が目の前に立つ。



「ユウナ?」


「うん。ヨル。久しぶり」



ユウナとは体育祭の夜以来で、俺の方が忙しくなって会えていなかった。

タエさんに相談して、ユウナがした行為が実は俺が誘惑していたんだと気づいたので謝ろうかと気まずく思っていた。



「久しぶり。でも、どうして水着?」


「部活の出し物だよ。ねぇヨル。今はヒマ?」


「まぁ何も予定はないよ」


「ならさ。私の演技を見に来てよ」


「演技?」


「うん。今からプールでパフォーマンスするの。だから!」



ベンチに座る俺の手を持ち上げるユウナ。


小振りながらもスレンダーで美しいユウナの胸元に手を寄せられる。



「わっわかった。いくよ」


「ヤッター。じゃ、行こ」



ユウナに手を引かれて歩き出す。



先ほどまでテルミ先輩と繋いでいた手をユウナが取っていることに不思議に思いながら、俺は整理したい頭と共にユウナに流されてしまった。



プールは多くのお客さんを入れてかなりの盛況を見せていた。

外部から来ているオジサン?らしき男性が多い。



「男性?が多いんだな」


「それは……まぁ多分露出が多いからじゃないかな?」


「露出が多いから?」



以外ではあるが、母よりも20以上の上の世代は、まだ男性が少なくなる前。

普通に女性と愛を育んでいた時代。

そんな年の男性は、若く露出の多い女性を好む者が多いそうだ。



「だから年配の方々が多いのか」


「そうみたい。次は私たちの番だから見ててね」


「ああ。演技楽しみにしてる」


「うん。ヨルのために頑張るから!」



ユウナが走り去った後。


俺は適当な席についてプールの方を見る。


さすがは青葉高校のプールは試合も行われる関係で観客席なども充実している。


年配の男性が多い席を外して、年が近そうな女性が多くいる席へと座る。



「あれ?ヨルじゃない」



すると見学に来ていたYUIさんと出くわしてしまった。



「ユイさん。お久しぶりです」


「本当に久しぶり。お盆の旅行以来だから一ヶ月ぶりかな?」


「そうですね。今日はユウナの演技を見に?」


「そうなの。あの子が見てほしいって。でも、ヨルもいるんだから何するのかしら?」


「さぁ?」



ユイさんと話していると、証明が落ちて飛び込み台から一人の生徒がプールへと飛び込む。


彼女が飛び込むと今度はシンクロするように数名の足が上がってきて舞を踊る。



「凄い!」


「本当に綺麗!」



ユウナはその中心で人魚の衣装に身に纏い高々と飛び上がる。



「ふふふ、凄いでしょ」


「知ってたんですか?」


「ええ。あの子にね主役をやるから見に来てほしいって言われたの。実は初めてなの大会とかも見に来なくていいってずっと言ってたのに。今回の演技はヨルにもお母さんにも見てほしいって」



ユイさんが嬉しそうに語る間。


ユウナは主役として演技を続ける。


水の中で重そうな衣装を着て、それでも泳ぎ、飛び、舞う姿はとても美しかった。


本当の人魚姫のように美しく魅力されてしまいそうだ。



「ねぇ、ヨル。あの子を救ってくれたのはヨルなんでしょ?」


「えっ?」


「あの子……夏休み前に少し落ち込むことがあってね。食事もろくに取れなくなってたの。だけど、お盆を過ぎてから少しずつ元気になって、二学期には学校に行けるようになったの」



あの旅館で話をして、ユウナが流した涙は無駄じゃなかったんだ。



「俺は何もしてません。ユウナは自分で道を見つけたんだと思います」


「そう?ヨルがそういうならそうなんでしょうね」



ユウナの演技は素晴らしくて、最後まで惜しみない拍手を送った。



「ヨル!」


「ユウナ。綺麗だった。それに凄かったよ」


「ありがとう。ヨルにために頑張ったよ」


「俺のため?」



ユイさんには聞いていたけど。

ユウナから素直にそんなことを言われるのは始めてかもしれない。


この間のは、ユウナが興奮していて何を言っているのかわからなかった。

だけど、今のユウナは冷静でマトモだと思う。



「うん。私ね。ずっと間違ってた……ただ、ヨルの側にいればよかったのに余計なことしてた。ヨル。私はヨルが大好き。ずっとずっと小さい頃から変わらずヨルが好き」



ずっと……ユウナは……自分から好きだと言わなかった。


ずっと、俺がユウナのことを好きだと言い続けていた。



久しぶりに聞く。



幼い頃のユウナの言葉……



「ユウナちゃん。本当に僕のことが好き?」



口から出た言葉は、俺が発したのか……それともヨルが話したのか……



「うん。大好きだよ。ヨル。私はあなたが好き」



ユウナは俺から発せられた言葉に応えるように強く強く好きを繰り返す。



「ありがとう。だけど、答えは明日まで待って」


「どうして?」


「それを決めるのはもう僕じゃないから」


「えっ?」


「答えは後夜祭で」


「わかった!私待ってる」



ユウナは素直に俺の言葉を聞いて走り去っていく。



「なぁ、お前はヨルなのか?」



俺が問いかけても、誰も問いを返すものはいなかった。

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