第68話 青葉祭は派手に ー 5
ツユちゃんのマッサージで寝てしまったので、いつの間にか日が沈んで夜になってしまった。
一日目では周りきれていないけど。
仕方ない。
「タエさん。すいません。お待たせしました」
「全然大丈夫ですよ。今日は学園全体の警備も兼ねていましたので、ヨル君は楽しめましたか?」
俺は今日できたことを思い出して、テルミ先輩、ユウナ、ツユちゃんと順番に顔が浮かんでいく。
「はい。色々ありましたが、楽しめたと思います」
「そうですか。それにしても凄いですね」
「凄い?」
「んだ。私がいた学校はここまで大規模な文化祭なんてやらなかったので、まるで大きな祭りに来たみたいで凄いんだ」
キラキラとした目をして、青葉高校を見つめるタエさん。
「それにヨル君は、その中心にいる人なんだって思うんだ」
タエさんは最後に巨大モニターを見る。
「今日映し出されていたPV映像は世界へ向けて配信されているんですよね?」
「まぁそう言ってたね」
「どんどんヨル君は色々な人が知るようになるんですね」
「そうなのかな?う~ん、でも実感はまったくありませんよ」
まだ、完全に光りが消えない校舎は、どこか幻想的でいつもの風景とは違うように見える。
色んな人に知ってもらうと思っても、結局自分の日常は変わらない。
「それでもヨル君のことを、世界が知ることになると思います」
タエさんは確信したような顔をして、俺の顔を見た。
「私は柔道で世界を見てきました。
だから分かるっていうと、ちょっと偉そうに聞こえるかもしれませんが……世界って思っているよりも狭いんです。
今の世界はインターネットという場所を問わない道具のお陰で、見知らぬ人でも、見知らぬ情報を得られます。
国や土地など関係ありません」
タエさんは真剣な顔をしていて、きっと大切なことを伝えようとしてくれているんだと思う。
「……それでも私はあなたの側にいたい」
「えっ?」
「あなたは言ってくれたから。私が側にいてもいいと」
「ええ。タエさんが居て助かっています」
いつも感謝している。
この間、男子応援団のメンバーで外に出たときもタエさん達が壁になって守ってくれいていた。
「はい。必ず守ります。でも、守るだけじゃなくあなたの側にいることが許されるならプライベートでもあなたの隣にいたい」
「えっ?」
「ヨル君。始めて有ったときから私はあなたが好きです。一目惚れだと思います。
仕事上絶対に言ってはいけない言葉だということはわかっています。
でも、今日の青葉祭を見て、今言わなければヨル君はどんどん遠くに行ってしまって……私が言えるような人じゃなくなってしまうような気がしたんです。
あなたが有名だからでも、ミステリアスイケメンだからでもなく。
ヨル君という人が好きです。
優しくて、鈍感で、男らしくて、ちょっとスケベで、全部全部好きです」
大切なことを伝えてくれると思った。
でも、どうして今なのか……きっとそれは他の子達と同じなんだと思う。
「どうして……とは聞きません。俺はタエさんを誘惑しましたからね」
タエさんへの気持ちはある。
だけど、他の子達へ気持ちを伝えないままタエさんだけに伝えるのは違うと思う。
「タエさん。その答え明日まで待ってもらっても良いですか?」
「……待っても良いんですか?ワタス?」
「……はいと言って良いのかわかりませんが、お願いします」
俺は頭を下げる。
「理由があるんですよね?」
「はい。タエさんが伝えてくれたように、他にも気持ちを伝えてくれた人たちがいます。俺は全員に明日答えを出します。タエさんもそこに居てほしいんです」
「やっぱり……もう、そんなに女の子がいるんだね」
「自分では自覚がなかったんですけどね」
「ふふふ、だから言ったじゃない。わかりました。待ちます。でも、明日だけです。明日、ヨル君に選ばれなければ私は私の答えを出します」
タエさんは強い人だ。
断ったとしても、きっとそれを乗り越えて言ってしまうだろう。
「さぁ、帰りましょう」
「はい」
二人で家路を帰る。
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タエさんと別れて家の中に入った俺はmainを開いてランさんとのトーク画面を開く。
「明日。色々な決着をつけようと思います。もし、お時間いただけるなら後夜祭に来て頂けませんか?」
その日、ランさんが既読をつけることはなかった。
ただ、朝起きたときメッセージに既読がついていた。
そして……
「了解」
と短い文章だけが帰ってきていた。
「これでランさんも来てくれるな」
あとは……俺はもう一人来てほしい人にメッセージを送った。
「さぁ後は今日次第だ」
制服に袖を通して家を出た。
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