sideシスターズ ー 1

【緑埜乙音】



私には三人の妹と、一人の弟がいる。

弟は、家族で唯一の男ということで、全て私達が身の回りの世話をしてきた。

そのせいなのか、ヨウヘーは何もしない自堕落な生活が身についてしまった。

ほとんどの時間を寝て過ごすようになってしまった。



それでも男性は守らなければ存在だと母に教えられていたのでそういうものだと思っていた。



変化が生まれたのは、中学のときに聞き始めた音楽だ。

音楽はヨウヘーの心を掴んだことだ。


それまで何もする気のなかったヨウヘーは楽器を買ってほしいと母に頼んだ。

初めて購入したピアノを楽しそうに演奏していた。



その姿を見た私達もヨウヘーが幸せだと思ってくれるならとそれぞれ楽器を習い始めた。

ヨウヘーが楽しそうに演奏している姿を見て嬉しくなったのがきっかけで、姉妹全員で音楽に関する勉強もするようになった。



ヨウヘーの影響で始めた音楽のお陰で仕事が決まり。

いつか、ヨウヘーがデビューを考えたとき手助けができればと準備を進め出した。



そんなある日。



私のすぐ下の妹である花音カノンが、私に動画を見せてきた。


仕事を始めて、最愛の弟と接する機会が減っていた私に与えられた幸福。

弟は高校生になったことで、部屋にこもることが多くなった。

顔も見れない日々の中で、花音が見せてきた動画は衝撃的な映像が映し出されていた。



「ヨウヘーがギターを弾いて人前に出てる!!!」


「乙音姉さん!ヨウヘーがとうとうやる気になったのよ!!!」



動画では、ヨウヘーがギターを弾いて、その横に黒髪の美男子が歌を歌っていた。


どうしてもヨウヘーの姿を追いかけてしまうけど。


それでも黒髪の美男子の存在感はヨウヘーに勝るとも劣らない輝きを放っていた。



「この二人……凄いわね」


「でしょ!」


詩音シオン美音ミオンは?」


「知ってる」


「そう、ならバックアップは出来るわね」


「いつでも」



私達四姉妹はいつでもヨウヘーの要望に叶えられるように準備をしてきた。

とうとうヨウヘーを世界が知るのだ。

他の女共に知らしめて自慢できる時がきたんだ。


私はすぐにヨウヘーの部屋を訪れて、ヨウヘーの音楽関係を手伝わせてほしいと申し出た。



しかし、ヨウヘーからの返事は……「団長がOKならね」だった。



団長って誰?私が問いかけると、動画を見せられて黒髪の奴という。



この美少年!!!ハードルが高すぎる!!!



男性の連絡先を入手することは不可能に近い。

学校で待ち伏せなんてしたら、ストーカー認定されて捕まってしまう。


ヨウヘーの気分が向いて、伝えてくれるのを待つしかない。


だけど、それほど待つことなくヨウヘーは私の言った言葉を伝えてくれたようだ。

一週間もしないうちに会えることが決まった。



私はすぐに接待用に会社が確保しているレストランを予約して貸し切りにしてもらった。

ヨウヘーの話では他のお姉さんたちも来るそうなので、もしかしたら私達姉妹のように他の人たちも色々と準備をしていたのかもしれない。



当日になって、私がレストランに到着すると、二人の女性がレストランの前に立っていた。



「初めまして、私は緑埜洋平の姉で緑埜乙音と言います。音楽関係の仕事をしております」


「初めまして。赤井隼人の姉で、赤井絵美です。仕事は映像関係の仕事をしています」



先に挨拶してくれたのは、私よりも少し年下?ながら大人っぽい雰囲気を持つ赤い髪をした気の強そうな女性だった。

赤井という名字で、ヨウヘーから応援団のメンバーのお姉さんの赤髪の子を連想できた。



「初めまして、白金聖也の姉で白金光です。女子大生をしていますが、弟の手伝いで編集とスケジュール管理を任されています」



絶世の美女。100年に一人の美少女など白金さんを見た瞬間に感想が浮かんでくる。

見た目は気にしていたけど、天然物の輝きは凄いわね。



「弟たちが来るまで少し時間があるので、中で話しませんか?」


「ありがとう」


「よろしくお願いします」



三人で中へ入って飲み物を注文する。


男性の姉弟がいる人と話すことなど珍しいことなので、ついお互いの弟のあるある話に花が咲いてしまう。



「弟ってそういうところありますよね」


「ええ、いつもはぶっきらぼうで何も言わないし、しないくせに、たまにこっちがしてあげたことに【ありがとう】って言われるだけでちょっと嬉しくなっちゃうの」



私が弟の話を始めると、絵美さんと光さんが同意してくれる。

つい楽しくなって話が盛り上がってしまう。



「わかるわ~男の子ってなんだか構ってあげたくなるって言うか、つい甘やかしちゃうのよね。

ズルいっていうか……それでたまに見せる。態度とかでコロっとやられてしまって」



気の強そうだと思っていた絵美さんは笑うと凄く美人だった。

ギャップのある人で、ハヤト君を本当に可愛がっているのが伝わってくる。



「うちは、あまり話をする子ではないんですが、最近は団長のヨル君の話ばかりで」


「あっ!それはうちも。ヨルとトレーニングしてくるって出かけるようになりました」


「そういえば、ヨル君の伝手でボディーガードさんも付いてくれたみたいで」



三人の弟たちの中心になる人物。

いったいどんな男の子なのか、正直仕事の話もあるが、今日は黒瀬夜と言う人物を見に来たと言ってもいい。



可愛い弟が気持ちを許した相手はどんな人物なのか……



応援団が到着したことを知らせられて……


先頭に入ってきた黒髪の高身長男子は、動画で見るよりも大人っぽい雰囲気をしていて色気を感じさせる風格を持った男の子だった。



明らかに纏う雰囲気が他の男の子とは違い過ぎる。


ヨウヘーの関係で、男の子を見る機会が他の女性よりも多かった。


だけど、その誰とも違う。



私の常識では男の子は可愛く。何もできない弱い生き物だと思っていた。

ヨウヘーもやる気がなくて、身体も子供の頃から弱くて私が守らなければならないとずっと思ってきた。


それはセイヤ君の話でも、ハヤト君の話でも同じだと先ほど確認し合った。



だけど、黒瀬夜君からは生命力と言えばいいのか、力強さと言えばいいのか、強烈な強さと男性的な魅力を感じてしまう自分がいた。





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