第57話 体育祭 棒倒し 前半

急遽、ヨウヘーの要望により歌唱の順番を代えることになった。


本来は、朝はダンスをして盛り上げる予定だったのだが、一曲目から


「フリーダム、いくぞ」


朝一から歌う歌ではないと思うのだが、セイヤとハヤトからも



「絶対、今日はお前の日だ」

「そうだね。ヨル。今日はダンスも真ん中でファーメーションを変えよう」



ダンスはハヤトを中心に組まれることが多い。

三人に押される形で、今日はメインで出演することになった。



「まぁいいか」



今日はタエさんのお陰で気分がいい。

なら、全力でやるだけだ。



【俺の歌を聞けー!!】



今日は声も、気分も体も全てが調子がいい。

集まった女子の注目が集まる。気持ちいい。


そうだ。俺は貞操概念逆転世界に来たかったんだ。


元の世界じゃ体が弱くて、ちゃんと女の子と話す機会もなかった。


意思の強い女子たちがいるこの世界で、幸せを掴みたいと思っていた。



【俺様だけの可愛い子猫ちゃん】



間奏の間に、合宿で鍛えたアクロバットを披露する。


いつもはハヤトに中央を任せているけど。


今日は【俺が主役だ】


グラウンドにユウナを見つけた。


ユウナへの俺自身の気持ちは……裏切られたという思いはある。

だけど、大切な幼馴染で美少女なら、俺が思うことは一つだけだ。



【お前は俺様のモノだ!!!】



ユウナを狂わせたのが俺なら責任取らないとな。


毒を食らわば皿まで全部平らげてやるよ!!!



今日は全力全身で、パフォーマンスに力を注ぎ込む。


午後に開始される棒倒しまで全力で踊り歌い続けた。



「いよいよ、体育祭も大詰め。青葉高校体育祭最大の見せ場である棒倒しが開催されます。競技内容は単純。相手の棒を倒した方が勝ち。シンプル!だが、戦略、戦術、力、スピード、チームワーク。全てを兼ね備えた。パーフェクト競技!!!」



GYOの絶叫がグラウンドに響き渡る。



「注目は、初日ドッジボール大会優勝を果たしたスポーツ科1-Aの双獣か、はたまたスポーツ科1-Bの鬼と人魚が暴れるのか?それともここまで三位の好成績を残す進学科1-Aが二つのスポーツ科を圧倒するのか!!!」


「他のクラスも上位を倒すことで、逆転を狙っていますね」


「この棒倒しで優勝したクラスは、まだまだ逆転の可能性があります」



それぞれの進学科三組、普通科三組、スポーツ科三組。計九組がグラウンドに現れて戦闘を開始する。



「一回戦第一試合に出てきたのは、進学科1ーAだ。他クラスはどうするのか?」



棒倒しは、7名の出場者が、攻撃と守備に分かれて戦闘を開始する。

強者に対して他のクラスとチームを組んでもいいし、作戦は簡潔である。



だが、1-Aが取った作戦は至って単純なものであった。



「おおっと1ーA組は倉峰飛鳥選手が一人で棒を支えているぞ。その前に二学期より転校してきた座敷露選手が立っているだけだ。守備は捨てて攻撃に集中するようだ」


「倉峰飛鳥選手は首席合格を果たし恵まれた体格で運動神経も抜群です。ドッジボール大会ではスポーツ科の1-Bを倒す快挙を成した人物ですね」


「もう一人の座敷選手は……可愛い。とにかく小さくて可愛い。それだけです」



俺は1-Aが出てきたことで応援に力を入れる。


彼女たちが少しでも勝てればと思いを込めた。


その願いが通じたのか、1-Aの猛攻が開始される。



「おおっと!!!1-Aの座敷選手。凄い!向かってくる敵を千切っては投げ、投げては防ぎ、防いでは吹き飛ばす。誰も座敷さんが守るラインを突破することができない!」


「どうやら彼女は合気道の達人のようですね。相手の力を利用してあの小さな体で他チームを圧倒しています」


「その間に三森一花選手が凄いぞ!!!文系女子だと思われていた三森選手は次席合格を果たした才女と聞いていましたが、その動きはまるで獣!四肢を使って他クラスの守備を潜り抜けて棒を倒していく!」



攻撃メンバーはイチカを除く四人が守備する者を翻弄して、イチカが棒へ近づいて倒すを繰り返している。


7人全員が棒を支えているわけではないので、一人二人であれば、コツを掴めば棒を倒すことは難しくはない。



「1-Aの攻撃の三森、守備の座敷が強すぎる!!!」


「スポーツ科1-Dのラクビー選手が座敷選手を大きく迂回して、倉峰選手に迫る!!!」


「すでに他クラスが倒された以上。進学科1-Aとスポーツ科1-Dの一騎打ちですね」



俺は全力で声を張り上げる。


その声に反応するように、ツユとイチカが同時に動いた。



「おっと!!!!瞬間移動なのか!ラインを引いて守備に徹していた座敷選手が、倉峰選手の前に現れた!!!」


「攻めてくる選手が居なくなったので、単純に棒を守りに戻ったたけですね」



ツユは170cmを超えるラグビー部員を軽く投げ飛ばし、イチカが1-Dの棒を倒した。



二人は俺の方へ体を向けて同時に礼をする。



「最高だぜ。【俺様だけの可愛い子猫ちゃん】」



ツユはモジモジと体をくねらせて喜びを表現してくれる。



イチカは……鼻血を出して倒れた。

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