sideボディーガード ー 3
【森多恵】
夏休みが明けて、旅行から帰ってきたヨル君はずっと悩みを抱えているように考え事ばかりするようになった。
彼女?らしき、相馬蘭さんとは上手く言っているようだが、それ以外に悩みがあるのだろうか?年上として相談に乗ってあげたいけどそこまでいしてもいいのか悩んでしまう。
ワタスだって、お付き合いなどしたことがないので悩みを相談されても答えられるわからない。
そうしている間に学校が忙しくなって、忙しさでヨル君は疲労していった。
体育祭の練習に過程でも何かあったみたいで、疲れている顔を良く見せていた。
それがピークに来たのは、体育祭二日目の朝。
挨拶をしても、心此処に非ずと言った様子で登校中も眠そうだった。
それは他の男子応援団の人たちも気付いたようで、各々声をかけていた。
仮眠をとって午前を過ごしたヨル君は、午後は応援団ではなく選手として体育祭に参加した。
他の子たちよりも頭一つ大きなヨル君は、運動でも頭一つどころか体一つ分ほど他の子を圧倒していた。
自分などボディーガードとして必要ないのかもしれない。
そんな思いを抱く時がある。
彼はワタスよりも強くて、気遣いが出来て頑張り屋さんで、男性とは思えないほど色々なことをしてる。
ただ、たまに女子たちが彼に群がろうとするので、ワタスは女子たちが彼に悪さをしないように壁になるだけ。
二日目の終わり間際、ワタスが他の女子を堰き止めている間に見知った顔がヨル君に近づていく。
社長であるSEI様の友人である、YUI様の子息女。青柳悠奈さん。
ヨル君の幼馴染で親しい中であると説明を受けている。
二、三言葉を交わすと二人は離れていった。
私は急いでヨル君に追いついて家まで送り届けた。
自分の存在意義は何なんだろう……素敵なミステリアスイケメンの側で仕事が出来ることは、最初は嬉しかった。
ヨル君は良い子で、仲良くなればなるほど楽しくて同時に絶対に手の届かない存在なのだと理解してしまうと寂しくなる。
今日で体育祭が終わる三日目……今まで一番暗い顔をしたヨル君を出迎えることになった。悩んでいるようで、挨拶以外の会話はない。
学校について騒がしい女子たちを見て立ち止まっている。
「ヨル君。大丈夫ですか?」
さすがに放っておくことはできない。
「すいません。ちょっと疲れが溜まってきているみたいです」
「それならいいんだけど。若いからって無理しちゃダメだよ」
知ってる。だけど、いつもの彼なら大丈夫と済ませてしまう。
初めて吐いた弱音に我慢できない。
「う~ん。少しだけ。お話をしようか」
「お話?」
「そう。まだ時間はあるので」
「……そうですね。誰かに聞いてもらったら違うかもしれませんね」
悩みがあるとき高いところに行くとスッキリする。
ワタスは高いところが好き。
屋上へ彼を連れて行って遠くの景色を見せてあげたい。
「さぁ、お姉さんに話してみなさい」
「えっと、俺には昔からずっと側にいて、仲が良かった女子がいるんです」
「青柳悠奈さん?」
昨日二人が話している姿を見かけた。
そのときは普通にしているように見えた。
「知ってましたか?」
「ヨル君の知り合いの方は一応ね。じゃないと護衛として判断できないから」
「ユウナは幼馴染で、色々なことを一緒にしてきたんです。でも、中学時代にちょっとしたすれ違いがあって。最近、また和解できたと思っていたんですけど……」
二人はケンカしていたのかな?子供のケンカが大人になって、男女として友人として戻りたいってことかな?
「う~ん。ケンカした友達と仲直りしたけど。まだわだかまりがあるってことかな?」
それって……無理なんじゃないかな?ミステリアスイケメンのヨル君に幼馴染が耐えられるとは思えない。
私だったら絶対無理だな。ヨル君と恋人になりたいって考えちゃう。
「男女の友情か~それはありえるのかな?」
「えっ?」
「ワタスは、スッゴイ田舎で育ったんだよ。それこそこっちに来るまで本物の男性を見たことがないぐらい田舎で……初めてあったのがヨル君だった」
たぶん、私はそのときに一目惚れしたんだろうな。
「初めて会う男性のヨル君に私は興奮したよ」
こんなこと言ったら嫌われるか、怖がってしまうかな……
「……でも、今は」
「引いた?今は仕事だから理性を総動員しているんだよ。でもね……もしも、ヨル君が私の幼馴染で、私の前で無防備な姿を見せるなら……ワタスはもう我慢できなくなると思う」
もしも、ヨル君と付き合えるなら彼がワタスの前でそんな姿を見せてくれたらガマンなんてできない。
「ヨル君は他の男の子と違って凄く距離が近い人だから、女は勘違いしちゃうかもね。例えば二人きりの部屋の中で、ヨル君が自分の前で寝てしまえば……襲ってもいいかなって」
あ~あ、何言ってるんだろ。ワタスも最近参ってたんだな。
彼の悩みを聞いているつもりで、自分の欲求を彼に押し付けてる。
「あはは、護衛が何言ってんだって感じだよね。今のは忘れて」
バカだな……こんなワタスじゃきっと好かれることはないだろうな……ハァ……なんでこのタイミングで気づいちゃうかな。
ワタスは彼が好きだ。黒瀬夜君に会った時からずっと……
「忘れません。タエさんは初めて会った時から、俺を庇ってくれました。
今も嫌われる覚悟をして女性の気持ちを話してくれました。
それってちゃんと俺のことを考えてくれてるからですよね。
ありがとうございます」
ヨル君は本当にいい子。自分が恥ずかしいよ。
「もう~そういうとこだぞ。君は本当に女性との距離が近すぎだし、男の子がそんな簡単にお礼なんて言ったら女は勘違いしちゃうんだからね」
ワタスは勘違いしないために彼から距離を空けて立ち上がる。
……
……
……
不意に後ろから抱きしめられた。
「タエさんなら勘違いしてもいいですよ。だけど、俺は悪い奴みたいです。大勢の女性のことが気になっているので……」
「バカだな君は……男性は大勢の女と子供を作ってもらわないと困るんだ。むしろ、君ほどのミステリアスイケメンなら大勢の女性が放っておくわけないでしょ」
彼がワタスを抱きしめてる?これは何?何が起きているの?他の女性がヨル君を放っておくことなんて絶対ない。
でも、もしも自分がその中の一人に選ばれるなら、幸せでしかない。
「俺、また間違えていたみたいです。相談に乗ってもらって嬉しかったです」
強く強く彼の腕と匂いと、耳元で囁かれる声に体が熱くなってくる。
「あっあのあのあのあの……いつまで」
「あつ。すいません。そろそろ戻りましょうか」
「はい!」
「本当ありがとうございました。それと……勘違いじゃなくて、誘惑してみました」
彼がワタスを誘惑????
えっええええええええええええ!!!!!!!
いいのかな?ワタス……あなたの側にいてもいいの?
身体の熱が引くまでしばらく動けなくなってしまった。
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