第52話 体育祭 二日目

昨日の出来事が夢だったのか、現実だったのか……判断できない俺は呆然としたまま学校へやってきた。


今日もハードなスケジュールを送ることが決まっていたはずなのに身が入らない。



「ヨル?どうしたの?昨日の疲れ?」



部室に集まった男子応援員からも心配されて、セイヤは本気で体育祭の応援を取りやめようか聞いてきた。



「いや、悪いな。大丈夫だ。ちょっと昨日の晩が早く寝たせいで朝が早かったから呆然としてた」



「ヨル?ここで寝るか?」



ヨウヘーが気遣って空いてるベッドを指さす。



「疲れているなら休息も大事だ。もし、寝てしまうなら午前中は我々だけで応援に行ってもいい」



ハヤトは一学期から比べると随分逞しくなった。




「じゃあお言葉に甘えて少しだけ眠るよ。セイヤ、行く前に必ず起こしてくれよ」


「……わかったよ」



セイヤは一番心配そうな顔で見ていたが、承諾してくれた。



30分ほどの仮眠をとって、俺たちは応援へと出て行った。


二日目は陸上競技で、ほとんどがスタジアムで開かれる。


長距離マラソン以外の種目は全てスタジアムとグラウンドで二分して行われ、進行は一日目よりもスムーズに進んでいる。



午後になり、俺はセイヤにある提案をした。



「なぁ、セイヤ。男子だけの競技もあるんだよな?」


「うん?急にどうしたの?」


「う~ん。なんかさ。せっかく体育祭だしさ。なんか競技出たいなって」


「ヨルは……ハァ~わかったよ。会長に伝えておくよ。それで?何に出たいの?」



男子競技に目を通す。


二日目は純粋な陸上競技なので、走ったり、飛んだり、投げたり……



「う~ん。とりあえず、走って、飛んで、投げたい」


「はいはい。三種目だね。よし」


何やらスマホを操作して見せられる。



「午後は思う存分暴れてきて良いよ。二人はどうする?」



セイヤが声をかけると、ヨウヘーが手を左右に振る。



「運動とかマジでパス。動きたくない」


「僕は興味はあるが、三日間の体力を温存しておかなければペース配分を維持できないと思うから、今回はやめておくよ」


「OK!僕も今回はやめとこうかな。裏方に回って編集とか撮影の指示も出したいし」


「みんな悪いな。俺のわがままで」



三人は顔を見合わせて笑い出す。



「ヨル団長~むしろ、ありがたいって」



ヨウヘーが代表して応えてくれる。



「ありがたい?」


「だって、ヨルが競技に出るってことは応援以外で注目が集まるから、僕らはゆっくりと休むことができるからね」


「そうだな。正直、三日間ダンスと歌を続けていて休みがないのは不安だったんだ。だから、助かる」



どうやら三人はハードな体育祭スケジュールに疲れを感じていたようだ。



「そっちも色々付き合ってくれてありがとな」



改めて三人に礼を述べて頭を下げる。



「俺らもさ、楽しんでるから気にすんなって」


「そうだね。思っていたよりも忙しくはあるけど。楽しい日々ではあるかな」



ヨウヘーはいつもの軽いノリで、セイヤは苦笑いを浮かべながら応えてくれる。



「僕は、ずっと自分の身体は弱いと思ってきた」



ハヤトの声が真面目なトーンで聞こえてきたので顔を上げる。



「だけど、ヨルに鍛えてもらってから凄く調子がよくなった。

ヨウヘーやセイヤ……ヨルと友達になれて僕は凄く……凄く充実した高校生活が送れているんだ」



感極まって涙を浮かべるハヤトをギュッと抱きしめる。



「こっちこそありがとうな。お前は本当に頑張ってくれてるよ」



ハヤトが俺の胸で泣く。



「ハヤトも随分変わったな」


「そうだね。文学クールキャラだったはずなのに」


「なっなんだそれは。べっ別に本が好きなだけで、僕は理系だ!」


「いやいや、ハヤトこんな中で実は一番成績悪いけどな」



二人がハヤトをからかい出す。



「二人ともその辺にしてやれ。ハヤトが頑張ってるのは知ってるから」


「ヨル~なぐさめられても、ヨルは成績も良いし、運動も出来てズルい!」



え~めっちゃいいことを言ったつもりなのに矛先が俺に向いた!!!



「まぁ、それは仕方ないんじゃないか?ヨルの方が背も高いし、筋肉あるし、イケメンだし」


「そうだね。ハヤトはメガネだし、ひ弱だし、泣き虫だし」



若干、ヨウヘーはからかっているのが分かるが、セイヤが悪口を言っている気がする。


「うるさいうるさいうるさい!ぼっ僕は別に……」


「ハヤトもまぁ怒るなよ。二人もその辺にしておけよ」


「へいへい」


「は~い」


「ふん。まぁ、こういうやりとりが出来ることが嬉しくは思うようにはなった」



顔を赤くして背中を向ける。


「デレたな」


「デレたね」


「デレだな」


「うるさい!もういい。とにかく午後は休みなんだろ。僕は寝る!」



ふて腐れてソファーに横になる。



「じゃあ、競技に出てくるよ。ゆっくりしていてくれ」



三人に見送られて部室を出た。



グラウンドには男性だけが競技をする時間になっていて、女子達の注目が集まっている。


男子応援団が休憩に入っている時間でもあるため、女子達からは男子応援団以外の男子がゆっくりと見れる時間でもある。


そこへ、他の男子に混ざって競技に参加させてもらう。



「えっ?」


「あれは!!!」



実況のGKOさんと解説の貝瀬さんが気づいてくれたようだ。



「まっまさか!!!GKOさん!!!」


「なんと貝瀬さん!!!

今入った情報によりますと、男子応援団から特別参加で、黒瀬夜選手が参加するそうです。

男子も、成績優秀者には学園から特典が設けられておりますので、参加男子たちはメリットがありましたが、黒瀬君の参加でどうなるのか?!!」


「参加種目は、100メートル走。棒高跳び。やり投げです」


「皆さん十分にお楽しみください」



俺も知らない情報だったから、教えてもらって助かった……

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