第38話 合宿が終われば、家族旅行

四日目の朝は、どこか夢心地で頭がフワフワとしていた。


唇に残る感触。


でも、あれは現実だったのか、夢だったのか、今でもハッキリと覚えていない。



あの後は、セイヤが迎えに来て部屋へと帰り着いた。


セイヤは何も聞かずに手を引いてくれて、部屋に入る俺に一言だけ。



「明日は最終日だからね。午後には帰るから、午前は自由行動にしよう」



それだけを告げて扉が閉められた。


助かったと思う。


今は何をするにもレイカさんの唇の感触だけがフラッシュバックする。



ふと、扉が叩かれる。


セイヤかと思って声を出す。



「は~い」


「あっあの。ヨル君。テルミです。少しよろしいでしょうか?」



意外にもテルミ先輩だったので、少しだけ驚いてしまう。



「えっと、はい。大丈夫です」



鏡で身嗜みだけ整えて扉を開く。


ツインテールに恥ずかしそうな顔がそこにはあった。



「あっあのですね。自由行動だとセイヤ君に聞いたので、もしよかったら一緒に海岸を歩きませんか?」



背の低いテルミ先輩が上目遣いにのぞき込んでくる顔は凄く可愛かった。



「はい。大丈夫ですよ」



部屋にいても昨日のことばかり考えてしまう。

それなら誰かと話をしている方が気が紛れるだろう。



「よっよかったです。ふふふ」



テルミ先輩は白いワンピース姿で、別荘から出ると麦わら帽子を被った。

とてもよく似合っていて。



「可愛いですね」


「ふぇ!?」



ついそんなことを言ってしまう。

照れたように顔を赤くして早歩きしていくテルミ先輩を追いかける。



「合宿ももう終わりですね」



下を向いて歩くテルミ先輩に俺から話しかける。



「……そうですね。あっという間でした」



テルミ先輩は息を吐き。こちらを見て会話を続けてくれる。



「今回の合宿は生徒会の皆さんのお陰で凄く楽しかったです」


「それはよかったです。会長の独断が強いですが、それでも男子応援団の皆さんと過ごせた時間は私にとっても凄く貴重で楽しい時間でした」



いつもながら丁寧で優しい口調で話をするテルミ先輩に、少しだけイタズラをしたくなる。



「テルミ先輩は歌が凄く上手いんですね」



彼女の耳元へ口を近づけて囁くように褒めてみた。



「ひゃっ!なっ!いっいきなり何をするんですか!」



顔を真っ赤にして慌てるテルミ先輩が可愛くて、もっとイジメたくなってしまう。

そう思っていると、テルミ先輩が岩場に足を取られて転倒しそうになった。


とっさに手を伸ばすが二人とも踏ん張りきれずに海へと落ちてしまう。



「ひゃ!ごっごめんなさい」



浅瀬の入り江に落ちてしまったようだ。


互いにびしょ濡れになって、テルミ先輩が慌てて謝罪を口にする。



「ぷっあははははは」



お互いびしょ濡れになったことが可笑しくて、大きな声で笑ってしまう。



「ふぇ?」


「大丈夫ですか?テルミさん」


「えっはい」



白いワンピースが透けている。



「もしかして誘ってますか?」



俺も白いシャツに短パンだったので上半身が透けてしまっていた。

テルミ先輩は、俺の言葉で互いに上半身が透けて見えていることに気づいた。



「はっ!」


「二度目ですね。裸を見られるのは」



海で溺れたテルミ先輩を助けたときと、これで二度目だ。


あのときはテルミ先輩は水着を着ていたけど。

今は白いワンピースに合わせて白いブラが透けてしまっていた。



「ごっごめんなさい。お見苦しい物をお見せしました」



レイカ会長よりも慎ましやかで、カホ先輩よりも大きな胸は、小柄なテルミ先輩にしては大きく見える。



「こちらこそまた見せちゃいました」


「あっいえ。むしろ眼福……はっいえなんでもありません。それよりも戻りましょう。濡れてしまったので着替えないと」



テルミ先輩が慌てて立ち上がり、滑る足場でもう一度転倒してしまう。


今度は前のめりに倒れて俺の上へと。


歯がぶつかるような衝撃がして、二人の身体が密着する。



「わっ私!」


「えっと。マジで襲います?」


「ごめんなさい」



二度も海に身体を沈めたことで完全に濡れた俺を放置して、テルミ先輩は走り去っていく。



「はは、昨日とは大違いだな」



レイカさんとしたロマンチックな衝撃的なキス。

テルミさんとの不慮の事故によるキス。



「大違いだけど。なんかめっちゃ記憶に残る」



二人の女性から受けた衝撃的な夏の思い出は一生忘れることは出来ない。


ハプニング続きの合宿も終わりを告げて、いよいよ夏も中盤へ。



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「突撃、隣のお家!!!」


合宿から返ってしばらくゆっくりとした日々を過ごしていると、青柳結あおやぎゆいさんの襲撃を受けた。


彼女はユウナの母親で、同じタワーマンションに住んでいる。


母さんがキツメの綺麗系とするなら、ユイさんは、【綺麗なお姉さんは好きですか?】のCMに出ていそうな誰もが憧れる美人といった感じだ。



「お久しぶりです」


「あ~ヨル君、久しぶり」



ユイさんと会うのは中学の卒業式以来なので、ちょっと驚いてしまう。

この人はいつも人懐っこくて抱きついてきたりする。



「あ~やっぱり男の子の匂いはいいわ~」


「多分、それセクハラです」



自然に頭を抱きしめて匂いを嗅ぐのはやめてほしい。

胸が当たってめっちゃ気持ちいい。



「もう、私とヨル君の仲じゃない。童貞もらってもいい?」


「だっダメです」



この人は昔からフランクに下ネタをぶっ込んでくる。

だけど、中学時代はユウナとユイさんが変わらず接してくれたことが、ヨルの心を支えてくれたのも事実だ。



「む~そろそろ食べ頃なのに。はぁ~もういいわ。やっと夏休みが取れたの。どっかいこ」



この人はいつもこうだ。突然現れて俺と月を連れ去っていく。



「俺は大丈夫ですけど。ツキがまだ学校で」


「ツキちゃんなら大丈夫。さぁいざ行かん」



強引に手を引かれて連れて行かれる。


駐車場には大きな車が止まっていて、中にはサングラスをかけたツキとフードを被ったユウナが乗っていた。



「あれ?二人とも乗ってる?」


「お兄。ユイ母さんには勝てないよ。拉致られた」



俺の問いかけにツキが返事をしてくれるが、いつも元気なユウナはフードから顔も出さずにいた。寝ているのかな?



「さぁ出発するわよ。温泉へレッツゴー」



なんの準備もないままに夏の家族旅行がスタートした。

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