第28話 庇われて


公園の痴女イベントが発生しません!!!


田舎少女から握手を求められるイベントでした。



「……別にいいよ」



脱力感がハンパない。



警戒心を解いて森さんに近づく。



手を差し出す際に一応、警戒心は少しだけ残してはいる。




「うわ~うわ~うわ~いいんですか?ありがとです。ありがたやありがたや」




メッチャ拝まれた。



森さんは恐る恐ると言った感じで手を出して、チョンチョンと俺の手をつつく。



こそばゆいやらもどかしいやら



「うわ~うわ~うわ~本当に固いんだねぇ~しかもおっきい」



いつの間にか手をムニムニと触られて、森さんの小さくてプニプニした手が俺の右手をまさぐる。



「えっと、初めて触った感想はどう?」



何を聞いていいのかわからない俺はわけのわからない質問をしてしまう。



「えっとな。えっとな。すっごいよかったよ~なんか幸せってこういうことを言うんだろうね」



手を放してくれた森さんは嬉しそうにニコニコしながら感想を伝えてくれる。



喜んでいいのかよくわからない感想だった。



「そう、ならもういいかな?」



「んだ。ありがとな。男性はやっぱ優しね~~。よし、私、仕事頑張れそうだよ」



「仕事?」



「そうだよ。私、都会に仕事しに来たんだよ。まだこっちの話し方とか言葉は慣れんから、ちょっと勉強しないとなぁ~。でも、都会に来た日に男性に会えるなんて運がいいべ~」



なんだかほっこりする森さんに、母さんと会っていた緊張感が癒されていく気がする。



「えっと、森さんはどうして公園に?」



今日来たばかりだという森さんがどうしてこんなところにいるのか気になった。



「明日から、初出社なんだけどね。なんだか緊張してきて、田舎の自然が恋しくなってなぁ~この公園は広いしいいねぇ〜」



思いっきり両手を広げて息を吸う。



俺も釣られて同じことをしてしまう。



「うん。ちょっと変な匂いもするけど。やっぱり自然はいいべ~」



釣られてやったけど。確かに落ち着く。



でも、確かに変な匂いが……



「なっ!」



匂いの元へと視線を向ければ、汚い?女性が俺の近くに立っていた。



「へへっへへ!男だ!男がいるぞ!」



野生の汚ギャルが現れた!



「男だ!ヒャッハー!」



奇声を上げて近寄ってくる汚ギャル。



いつの時代に流行っていたのかわからないガングロヤマンバ姿をした女子たち三人が俺を囲む。



ついに!ついになのか?ついに痴女られるのか?でも……ちょっと嫌だ。



顔は悪くない!



そこそこいい!



だけど、森さんから田舎純粋美女を見た後だと…ちょっと違う。



汚ギャルと言っているが、年齢が若く見えない……おばっ……とにかく清潔感が感じられない。




そして、ちょっと臭い。




「あっあんたらなんだべ!男を囲んで何する気だ!」



困っている俺を見かねて、森さんが怒声をあげる。



「はっ!女は〇ね!私らは今からこの男といいことすんだ!」



「そうだそうだ。田舎臭いお前とは違うんだ!ここを拠点にして、あ~しらはもう処女じゃねぇ!」



「そうだ。もう両手で数えるだけ男を襲ってやったんだからな」




俺の脳裏に今度こそ、ニュースで見た痴女はこいつらだと確信する。




「襲う!あんたら男の人にそんなことしたら、なんね!男の人は守る対象だよ」




森さんが汚ギャル一人の肩を掴んで、俺から引き離す。



森さんの力が強いのか、掴まれた汚ギャルCは尻餅をついて痛みで動けないようだ。



俺は森さんに手を引かれて、森さんの後ろに庇われる。



「大丈夫だ!絶対に男の人はワタスが守る!」



「え~聞いた?ワタスだって!これだけから田舎者は!?って感じ」



汚ギャルBがダルそうに話しながら近づいて森さんを殴るために腕を振り上げる。



俺は森さんがやられると思って一歩踏み出そうとして、森さんに止められる。



「大丈夫!下がって!」



森さんは冷静に、汚ギャルBの腕を掴んで投げ飛ばした。



「えっ?」



「ワタスはちょっと柔道には自信があるんだよ」



状況不利と見た汚ギャルAが逃げようとするが、森さんが捕まえて締め落とした。



「さて、こいつらは警察に連れて行くから、もう大丈夫だよ」



鮮やかに汚ギャル三人衆を取り押さえた森さんは、涼しい顔で振り返る。



先ほどまでの都会に憧れる純粋な田舎少女ではなく。

逞ましく頼り甲斐のある強さに呆然としてしまう。



「凄く強いんですね」



「そんなことねぇだよ。でも、私は頭もよくねぇから強くなって、男の人を守る仕事をしようと思ってるんだぁ」



恥ずかしそうに頭を掻きながら、自分の夢を語る森さんは輝いて見えた。



「えっと、俺の名前は黒瀬夜っていいます。助けて頂いてありがとうございます」



俺は一人でも対処できたかもしれない。

けど、森さんの好意を無下にしたいとは思わない。




「黒瀬君か~本当にあんたは良い人だね。さっき手を触らせてもらったから分かるけど。あんたも結構強いよね。余計なことしたかと思ったけど。ちゃんとお礼を言ってくれて。嬉しいな」




森さんは俺が対処できたことをわかった上で助けてくれたのだ。

それも言わなければ恩をきせることが出来たのに、森さんこそ良い人だと俺は思った。




「とりあえず、公園の外に交番があるので、そこまで一緒に行きましょうか」



「そだね。さすがに三人は一人で連れて行くの辛かったよ」



俺は森さんと笑い合って、汚ギャル三人衆を交番へと連行した。



交番では、最近頻繁に痴女が出没していたこともあり、大手柄だと後日表彰されることになった。



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