第27話 母とディナー

高級レストランに場違い感を覚えながら、他の人が気にならない広いソファー席へと案内される。

他の席よりも高い位置に設けられた席は、同じ方向を向いてソファーに座りながら夜景を見ることができる。



最高の景色が見えてVIP感が半端ない。



「SEI様、本日はお越しいただきありがとうございます」



執事服に身を包んだカッコいい女性が、母さんに挨拶にやってきた。



「突然の予約に対応してもらって悪いわね」



「お得意様である、SEI様のためであれば」




ああ、これってあれかな?父親が娘をいい店に連れて行って父さんイケてるだろって見せるやつ?



「ヨル……お腹空いてるわよね。肉をメインで後は適当に持ってきてくれる」



「かしこまりました」



ウェイトレス?ウェイター?の人が去っていくと、母さんと二人の空間になる。



普段、あまり話したことのない母さんに何を話せばいいのか戸惑う。



「最近の学校はどうなの?楽しい?」



何を話したらいいのか考えていると、母さんの方から問いかけてきた。



「うん、楽しいよ。でも、今日は学校のことで母さんに頼みがあるんだ」



丁度、質問されたので本題に入りやすくなった。



「ちょっと待ちなさい」



本題に入ろうとしたが、母さんに止められる。

先ほどのカッコイイ従業員さんが飲み物と前菜を持って現れたからだ。



「前菜のカプレーゼとサーモンのマリネです」



高級レストランなので、物凄い料理が出てくると思ったけど。出てきたのは聞いたことのある料理だった。



ただ、二人のテーブルの前に置かれた飲み物は真っ赤なワイン?



「大丈夫よ。アルコールは入っていないわ」



母さんに諭されて口をつけたワイン?らしきものは、濃厚なぶどうジュースだった。

渋みが少なく飲みやすくて美味しい。



「それで?頼みって何かしら?」



母さんがカプレーゼを口に含んでワイン?を飲む。



ただ、待ったをかけられたことで落ち着いて話す順序を思い出すことが出来た。



「ちょっとこれを見てもらっていい?」



俺はセイヤがアップしたSNSの動画を見せた。



「これって……ヨル?」



「そう。俺さ、高校で部活の部長をしてるんだ。ただ男子ばっかりの部活で、こういう動画がSNSで話題になって活動に支障が出るのが嫌だなって思うんだ」



説明を始めても、母さんはスマホの画面を見つめ続けている。



「男性保護法案でメンズガードが出来ただろ?」



男性保護法案を口にすると、母さんの体がビクッと反応した。



「ええ」



「俺は母さんに鍛えてもらったから、自分のことは心配してないんだ。だけど、同じ部活の男子たちが危険な目に合うのは望まない!」



あくまで自分のためじゃないことを強く主張する。



母さんは昔から俺を鍛えてきた。



きっと、それは弱い男が嫌いだからだと俺は思ってる。



「だから、母さんの会社からボディーガードを派遣できないかな?」



俺の話を聞きながら、動画を見てワインを飲んでいた母さん。



真剣に話を聞いてくれない母さんに苛立ちを覚える。



「母さん聞いてるの?」



俺は少し強引に母さんの肩を掴んでこちらを向かせる。



「イタっ!痛いわ」



「あっごめん」



つい力が入り過ぎてしまった。



「凄い……力なのね……」



小さな声で呟く母さんの声が聞こえない。



「母さん?聞いてる?」



「ええ、聞こえているわよ。男子学生にボディーガードよね……それは構わないけれど。学校側は許可を出すかしら?」



「一応、部活の顧問をしてくれてる先生が学校側に届けは出してくれることになってるんだ」



「そう……わかったわ。手配するわ」



母さんは素っ気ない様子だったが、承諾してくれた。



「よかった!ありがとう」



きっと俺には興味がない。

そう思っていたから、頼み事を承諾してくれたことで肩の荷が下りた。

そのあとは出てきた牛ヒレ肉のフォアグラ添えを美味しく頂いた。



「ねぇ、ヨル。私は今日もホテルに泊まるけど……一緒に泊まる?」



食事も終盤に差し掛かると、母さんが高級ホテルの一室に部屋を取ってあると言った。



どうやら普段、家に帰ってこないときはここに泊まっているようだ。



「ううん。お腹いっぱいでちょっと歩きたい気分だから」



「そう……私はお酒が入ってるから……車もあるし……」



「だね。デザートも食べたし。母さんに頼み事も出来たから、先に帰るよ」



デザートはティラミスで、今まで食べたこと無いぐらい美味しかった。



「あっ」



俺が立ち上がると、母さんが手を伸ばして声を出す。



「うん?何かあった?」



「ねぇ、ヨル。他に私にしてほしいことはない?」



母さんから問われて、俺は何も思い浮かばなかった。




「大丈夫だよ。ちゃんと一人でやれてるから、それに学校で友達もできたから」




俺の脳裏にセイヤ、ハヤト、ヨウヘーの顔が浮かぶ。




「そう……気を付けて帰るのよ」



手を引いて顔をそむける。



「うん。母さんも飲みすぎはダメだよ。体を大切にね」



俺は席を立って出口へと向かった。



「おかえりですか?」



出口までやってくると、カッコイイ従業員さんが扉を開けてくれる。



「はい」



「お気をつけて、またのお越しを心からお待ちしています」



丁寧に送り出してくれた従業員さんに頭を下げて店を出た。



さすがは高級ホテルと言うべきか、最上から降りるエレベーターは静かで、夜景を見ながら降りられるのは最後まで素敵だった。



ホテルから出る際に従業員全員から頭を下げられた。



「お気をつけて行ってらっしゃいませ」



自分がVIPになったような気がして、レストランに続いて気分が良くなる体験が出来た。



駅までの道には大きな公園があり、夜道の公園は怖いような気持ちよい風が吹いていた。



「おっ男!!!」



そんな俺に一人の女性が大きな声を出す。



「うん?誰?」



「なっなんて!メンコイ、ミステリアスイケメンだべ!」



早口で何を言われたのかわからない。



見た目や服装は野暮ったい印象を受けるが、顔は綺麗な色白美人。



「えっと……何か御用ですか?」



俺は何があってもいいように若干身構えながら問いかける。



「わっワタスは森多恵モリタエといいます。人生で初めて男性を見ました!なので、お願いがあります!」



俺は内心で舌打ちをする。



ニュースで、田舎女子が都会に男性を求めて痴女行為をしていると見たばかりなのに……夜の公園を一人で歩いてしまった。



……


…………



本当は、こんなイベントが起きないかと密かに期待してたけどね!!!






「なんですか?」





「あっあんたの」





「僕の?」








とうとう来るのか?貞操概念逆転世界に来てやっと…やっと美人痴女に襲われるのか?








「手を!握らせてください!!!」





「……はっ?」







「ワタス、男性にあったら手を握らせてもらいたかったです。男性の手は女性と違って、ゴツゴツだったり、固いって聞いてずっと触ってみたかったんです」




思ってたのと違う!!!

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