side幼馴染 ー 4
【青柳悠奈】
水泳大会が終わった。青葉高校は接戦で勝利した。
それもこれも男子応援団の応援があったからだと部員一同で勝利を噛みしめた。
大会終わりのミーティングを終え、それぞれ英気を養うために早々に解散する。
レギュラーだけで打ち上げに行くので誘われたが、どうしても外せない用事があると言って抜けさせてもらった。
本当は行かなければならないことは分かっているけど。
どうしても、今じゃなければいけない気がした。
私はヨルを探して校舎を走る。
男子応援団は片付けをしていたから、部室に戻っているはずだ。
男子応援団の部室は、進学科校舎にある保健室だと聞いていたので保健室の扉を開く。
「あれ?君は誰?」
優しそうな保健の先生が出迎えてくれる。
若い男性の先生は珍しいので驚いてしまったが、ヨルに用事があることを伝える。
「ああ、それなら隣だよ。男子応援団の部室は保健室のとなり」
「ありがとうございます」
私はお礼を言って教えてもらった隣の部屋の扉を開く。
そこには応援団として参加していた二人の男子が眠っていた。
ヨルの姿がなくてキョロキョロと部室の中を覗いていると、隣の部屋から白銀の王子様が姿を見せる。
「うん?【青柳悠奈】さん?どうしてうちの部室に?」
「黒瀬夜君はいますか?」
「ヨル?ヨルならもう帰ったよ。さっき帰ったばかりだから、まだ階段じゃないかな?」
「ありがとうございます」
私は王子様にお礼を言って駆けだしていく。
部活以外でこんなにも走るのはいつぶりだろう。
息が苦しい。
だけど、早くヨルに会いたい。
その一心で階段を駆け下りた。
グラウンドに出て、ヨルの姿を探せば、校門へ向かって進む一人の男子生徒が見えた。
「ヨル!!!」
彼の姿が見えて、嬉しくて大きな声で彼を呼ぶ。
でも、ここまで走り続けたせいで息が整わない。
久しぶりに近くで見るヨルは身長が私よりも頭二つも大きくなっていた。
180cmを超えているのかな?
ブレザーも着崩れしてないし、髪もボサボサじゃない。
顔に陰も無ければ、自信が無さそうに伏し目がちでもない。
真っ直ぐに私を見つめる瞳は私の知るヨルではなかった。
「ユウナ。今日はお疲れ。それと平泳ぎ1位おめでとう」
声が出せない私に、ヨルは優しい笑顔でおめでとうと言ってくれる。
これまでも【勝ったよ】と伝えると【おめでとう】と言うメッセージのやりとりはあった。
だけど、ヨルが私を応援に来たことはない。
正面からおめでとうと言ってもらうのも初めてのことだった。
中学の時だったら、ヨルを毎日迎えに行って、たわいのない話をして、笑い合っていたのに。
成長して、お互いに異性になって、ヨルを意識するあまり他の女子を遠ざけることばかり考えて、ヨルと過ごす時間を蔑ろにしてきた。
それを終わりにするんだ。
今日、私はヨルと彼氏彼女になるんだ。
「あっありがとう。今日も、応援してくれてありがとう。ヨルが私のこと見てくれて嬉しかった」
息が整ってやっと話すことが出来た。
「ねぇ、ヨル。最近、話せてなかったね」
私は今から言うことが恥ずかしくて、地面ばかりを見てしまう。
「そうだな。ユウナも部活をガンバッてたみたいだし。今回は初めてユウナの試合を見たけど凄かったよ。ユウナって速かったんだな」
中学のときから、もっとヨルに応援してもらえばよかった。
「まっまぁね。これでも1年ではエースだから。水無瀬先輩には自由形で勝てないけど。平泳ぎなら負けない」
ヨルは高校に入って、自分から人とかかわる努力している。
ヨルの世界は狭くて私だけだったのに、広い世界へ羽ばたこうとしている。
「ねぇ、ヨル」
ヨルを繋ぎとめるために私は今までのことを謝って、ヨルに告白をする。
「ユウナ」
私が話し始める前に、ヨルから名前を呼ばれる。
「何?」
中断されて、どうしようかと思ったけど……彼の話を聞くことにした。
「ユウナにはたくさん助けられてきた」
ヨルからそんな風に思ってもらってるなんて思わなくて、胸が熱くなる。
「中学で誰からも話しかけてもらえない俺にユウナだけは変わらず話をしてくれた」
違うんだよ。あれは私が皆に話しかけないようにしてたんだよ。
ごめんね。ヨルを独り占めしたかったんだ。
「一人で塞ぎ込んでいる俺にユウナは毎日メッセージを送ってくれた」
知ってたよ。ヨルが悩んでいることも一人で苦しんでくることも
だから、私だけがあなたの味方でいたかった。
「本当に、本当にありがとう。
ユウナがいなかったら俺は中学に行くことも出来なかった。
こうして高校に来ることも出来なかった」
ああ、やっぱり私達は結ばれる運命なんだ。
わかってたよ。ヨル。
私もヨルが大好き。
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