side生徒会 ー 3 書記編
【最上照美】
3月から生徒会活動は、かなり忙しい日々だった。
やっと一段落つけるようになり、会長が休息を取れるようになった。
「ごめんなさいね。今日は家の方で用事があるの」
「私もお嬢様に付き従いますので、先に失礼します」
会長と副会長が、申し訳なさそうな顔で告げてくれる。
「全然大丈夫ですよ。今日はカホちゃんも体調不良で休んでいるので、お留守番しながら出来ることをしておきます」
「そうだ。もしかしたら【黒瀬夜】君が部活申請に来るかもしれないから、申請を通してあげて頂戴ね」
数日前から、会長は黒瀬君の名を話題に出すようになった。
それまでは疲れた顔をされていたのに、どこか楽しそうに仕事をするようになった。
黒瀬君は、部活動を作ろうと動いているそうだ。
男性だけの部活動は青葉高校ではあまり好まれていない。
どうせ、世の男性は横暴な人が多く我儘だ。
学校に来てくれるのは嬉しいが、子供みたいなことを言って困らせるのは大変だ。
それなのに会長は黒瀬君の部活は絶対に通すと言ってきかなかった。
「どうして黒瀬君の部活は受理するんですか?」
何かを思い出すように視線を天井に向けた会長は、見たこともない妖艶な笑顔で【秘密よ】とだけ言って帰っていった。
「なんだったんでしょうか?」
会長の態度は気になるが、今日来るとは限らない。
そう思っていたのに、黒瀬君は部活の申請書類を持って現れた。
「受理されました。
予算などが必要でしたら、後日必要費用を書きだして提出してくださいね」
事務的な対応を心がけて終わりにする。
「部活申請書類って、職員室に出すんじゃないんですね」
私が終わらせようとしているのに、黒瀬君から質問を受けてしまいました。
質問されたなら、応えなければならない。
「青葉高校では、生徒会が部活動関係の予算を取り仕切っていますので。
生徒会顧問に確認は取りますが、採決は委ねられているんですよ。
スポーツ科などは推薦枠を作っているので学校側が管理しています。
部活動の枠を出てしまうので。部活動の枠に納まる部は生徒会の役目です」
真面目に答えてしまう自分が面倒だとは思ってしまう。
これも仕事の一つなんだから仕方ない。
面倒なことを押し付けられたと嫌味の一つも言いたくなる。
「それにしても、会長から黒瀬君が部活動申請しに来たら受理してあげてほしいと聞いていてよかったです。
そうじゃなかったら男性が部活動申請を持ってくるとは思わないので、驚くところでしたよ」
ただ、やっぱり気になることがあるので、私は自分から質問をしてみることにした。
「あの……会長からどうやって許可を取ったんですか?
実を言うと、男性の部活動はあまり歓迎されていないんです」
もっと言い方があったのかもしれない。
でも、男性との接し方など……私はクラスメイトの男子とも話したことがない。
男性に興味はあるけれど、男性をわからない。
我儘で子供で、きっと直接言った方が伝わるだろう。
「えっと、会長からは聞いてないんですか?」
聞きましたとも。
「聞いてはみたんですが、【秘密よ】と言われてしまって」
私は会長の態度を思い出しながら、会長の声真似をして言われたことを繰り返した。
「じゃあ、秘密です。
でも、代わりに最上先輩を応援させていただけませんか?」
教えてもらえませんでした。
彼の発言を聞いて、私は部活動申請用紙を見る。
【部活動名:男子応援団。 部活内容:女性の応援】と記されていた。
「私を応援ですか?」
「はい。応援です」
男子に何が出来るというのでしょうか?
私も女子なので男性に興味はありますが……
「ええ。よくわかりませんが、応援団がどのようなことをするのか興味があるのでお願いします」
「それでは応援しますので、目を閉じていただけますか?」
「目を閉じるのですか?う~ん、わかりました」
いったい何をするつもりなんでしょうね?
応援というからには声に出して、【ガンバレ】とでも言われるのでしょうか?
「ちゃんと閉じておいてくださいね」
「えっ!」
いきなり彼の声が耳元で聞こえ目を開けそうになる。
でも、彼の吐息が、息づかいが耳から感じられて、開けてはいけないと思った。
その瞬間、私の耳を通して背中に電気が走ったような衝撃が走り抜ける。
「いきますね。
………
……………
部活の書類、受理してくれてありがとうございます
親切に話してくれてありがとうございます
丁寧な対応してくれてありがとうございます
…………モガミ先輩…………
ツインテール可愛いですよ
仕事してる姿が綺麗です
気配りが出来る人って素敵ですよね
…………テルミ先輩………
いつも頑張ってくれて、ありがとう
…………テルミ………
お疲れ様」
低く落ち着く声が、耳から脳へ入り、胸を締め付け全身を駆け巡る。
一言発せられる度に脳が痺れ、身体が反応する。
なっ名を呼ばれました!!!呼び捨て!!!
くっはっ!ダメ!耳で逝く。
「最上先輩、もう目を開けていただいて大丈夫ですよ」
遠くから彼の声が聞こえる。
私を天国へ誘うメシヤ様。
「………」
私は名を呼ばれても動くことができない。
今動けば、私は溶けていなくなる。
「先輩。最上先輩……えっと、テルミ先輩?」
「はっ!わっ私は、あっうぅぅぅぅぅっぅうっぅ!!!」
彼が私の名を呼んでいる。
夢の世界から呼び戻され、意識を取り戻した。
ただ耳に残る……低くエロティシズムな響きが頭の中で木霊す。
こんな衝撃をどうすれば耐えられるというのか?
ここは天国?私死んだ?
何度も頭を振って、木霊す声を振り払おうとするが振り切れない。
「はっ!くっ黒瀬君は?あっ」
やっと彼の存在を思い出した。
焦点が定まった私が見たのは、彼の視線。
「すっすみません。取り乱してしまいました。
あっあの。
許可が下りた理由は十分にわかりましたので、今日はお帰り頂いて結構です」
急いで彼を生徒会室から追い出して、私は扉を背に座り込んだ。
スカートの中はぐっしょりと濡れてしまって、誰にも見せることが出来ない状態になっていた。
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