第21話 部活動開始

部活動申請が通ったことで、顔合わせもかねて空き教室に集まることになった。



「保健室の横が空き教室になってて助かったよ。僕って歩くの苦手だからね。ここなら楽にこれちゃうよ」



部活動をするため部室の申請をしたところ、保健室の横で空いていた二つの教室を自由に使っていいということになった。

本来は大量に急患が出た時や避難所用の余裕を作るための教室なので、元々誰かが使うことのない部屋だそうだ。




「先生は忙しくないんですか?」



「うん。僕は男子専用の保険の先生だからね。女子は立ち入り禁止なんだよ」




避難所として使われる目的なので、ウォーターサーバーやベッド、非常食なども保管されている。

そのための冷蔵庫まで完備されていて、数人ならば数日住める設備が整っていた。



「ずっとここにいたい」



緑埜はソファーベッドを占拠して音楽を聴いている。



「ふん。悪くないな」



何故か赤井も椅子に座って読書をしている。



「先生、パソコン使いたいのでWi-Fi飛ばしていいですか?」



セイヤが自分のパソコンを持ち出してネットに繋げる。



「いいんじゃない?」



軽っ!先生、ベッドで寝てていいんですか?



「よし。準備出来たね。ヨルもそろそろ座ったら?」



セイヤはパソコンデスクを占拠して、全員が見渡せる位置を取る。

俺は余っていた椅子に腰を下ろしてセイヤの発言を待った。



「それじゃあ男子応援団のミーティングを開始します。本日は初日なので顔合わせと今後の方針なんかを話し合っていきたいと思います。僕等はクラスメイトで自己紹介もしたことがあるから、先生に向かってそれぞれ名前と趣味でも話そうか?」



「は~い。俺は緑埜洋平。ヨウへーって呼んでね。俺は音楽が好き。聞くのも作るのも好き。応援団では、応援歌をたくさん作りたい。あと、絵も描くのが好き。おわり~」



ソファーに寝そべったまま趣味とやりたいことを言って終わってしまう。



「ふん。僕は赤井隼人。まだ仮入部だ。べっ別にクラスで僕だけが一人だけ入っていないから来たわけじゃないからな。特別にハヤトと呼んでもいいんだぞ。趣味は読書で応援団の活動に興味があって参加した」



ハヤトは律儀に立ち上がって、先生を見て自己紹介をする。

ちょっとツンデレな感じがしたのは俺だけだろうか?



「次は僕だね。白金聖也です。僕のことはセイヤって呼んでね。応援団では参謀役として今後の行動方針や指針などをまとめる役目をしようと思っています。趣味は人間観察で、色々な人と話すのが好きです」



セイヤはこういう場に慣れているのか、淀むことなく話を終えてしまう。



「えっと……俺は、黒瀬夜。応援団の団長だ。ヨルでも団長でもどっちでもいい。目的は、女子と仲良くなるキッカケを作りたいと思って部を作った。

趣味はトレーニング。最近は自分で料理も始めた。

みんなが協力してくれたら色んな女の子と仲良くなれると思う。

よろしくお願いします」



言葉をまとめることが難しくて、なんとか言い切ることが出来た。

セイヤはニヤニヤとしているので腹が立つ。

赤井は女の子と仲良くなると言った時、眼鏡が光ったような気がする。

あいつはもしかしたらムッツリかもしれない。



「よし。最後は僕だね。僕は神崎薫です。養護教諭です。カオル先生って呼んでね。得意なことは傷の手当だよ。一応医師免許も持ってるから病気の相談もしてね。

あとは、悩み相談です。みんなも女の子について悩んだら聞いてね。

既婚者なので恋愛相談には答えられると思うよ」



柔らかい雰囲気を持つ先生が話し始めると、緊張していた空気が弛緩する。



「さて、みんなに質問です」



カオル先生は自己紹介に続いて話し始める。



「はい。なんですか?」



セイヤが代表して返事をした。



「君たちは好きな子はいるかな?もう高校一年生なんだ。


気になってる子やこれまでの人生で女性にかかわってきていることと思う。


どうかな?」



先生の質問にそれぞれが顔を見合わせる。



「う~ん、こういうことは恥ずかしいかな?じゃあ先生の指名制にします。


先生に指を刺された子は女の子の名前か、関係性を言うこと」



いきなり始まった好きな子の名前を言う会に俺は頭の中で女性の顔を思い出す。



一番に浮かんできたのは、【相馬蘭】さん。

ゴールデンウイークのデートから、mainのやりとりは続いていて夏休みにはデートしたいと思っている。



蘭さんのことを考えていると、同じぐらい美人な【東堂麗華】生徒会長のことを抱きしめたことが浮かんできた。



あれは恥ずかしかったけど。会長はどう思ったのかな?



今気になっているのは二人だけかな?ふと【青柳悠奈】の顔が浮かぶ。



幼い頃からずっと側にいた幼馴染。



最近は、それぞれが忙しくてゆっくりと話す機会もなくなってしまった。



「じゃあ、ハヤトから」



「なっ!どうして僕から」



「だって、ハヤトは、ムッツリスケベそうだから」



どうやら先ほどのやりとりでカオル先生もハヤトがムッツリスケベだとわかったようだ。



「なっ!僕はムッツリじゃない。僕は趣味が合いそうな三森一花さんが気になっている。どうだ!ハッキリ言えるんだ。ムッツリじゃないぞ!」



三森一花と言われて、荷物を運んでいた文系眼鏡女子を思い出す。



「彼女は次席入学で頭もよく。司書になるために図書部に入部したんだ。真面目で健気で素敵な人だ」



どうやってその情報を得たんだよ。



ハヤトとイチカが話してるところ、俺は見たこと無いぞ。



もしかして俺が知らないだけで、仲がいいのか?



「そつそう。うん。好きな人がいるっていいことだよね。じゃあ、次はセイヤ君」



ドン引きした先生がターゲットを切り替える。



「僕ですか?僕は中学時代の記憶が無くて、昔から好きな女性はわからないんです。高校に入学してからはちょっとしたことがあって女性が怖くなってしまいました。だから今は家族が一番好きな女性です」



セイヤには、母と姉がいるそうだ。



「ヨウヘーは?」



「俺?俺は音楽が恋人かな?だから歌が上手い子が好き。最近は、アイナジとかUruをよく聞いてる」



「なるほどね。プロのミュージシャンか、そうなると身近な子たちは残念かな」



貞操概念逆転世界なので、女子が応じれば緑埜の願いは叶ってしまうかもしれない。



「最後はヨルはどうかな?」



全員の注目が集まる。



「俺は……気になっている人が三人います。三人の内二人とは連絡先も交換する仲です」



相馬蘭さん

東堂麗華会長

青柳悠奈



まだ三人の内、誰が好きなのかわからない。



「なるほどね。意外だけどヨルが一番大人だね」



カオル先生の発言にハヤトは何故か悔しそうに睨みつけてきた。




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