第14話 部活見学二日目 文化部編
二つのことを失敗した。
まず一つ目は、女子人気の高いセイヤと行動を共にしたことだ。
運動部ハーレムをしたかったのに、ほとんどの女子が俺ではなくセイヤに群がってしまった。
それは日頃から、優しく女子と接しているセイヤの方が、超絶イケメンであるだけでなく選びやすかったのは必然なのだ。
なら、今日はどうするか?
「ねぇ、今日も部活を見て回るよね?」
「セイヤ、今日は別行動にしよう」
「えっ?」
俺は先手を打つことにした。
このままではセイヤが今日も一緒に回ろうと言ってくるはずだ。
そうなれば文化部女子たちとのキャッキャウフフな部活体験ができなくなってしまう。
「え~僕、ヨル以外に友達いないんだけど」
「倉峰はどうだ?」
生徒会室で知った新事実である倉峰には友達がいない。
これが俺が間違った二つ目だ。
主人公とヒロインが俺がいることで親密になれていない。
これは二人の関係の解決にもなる。
何よりヒロインと主人公をくっつける口実としては完璧だ。
「えっと、倉峰さん?」
俺とセイヤから名前を出された倉峰はガバッと音がしそうな勢いで振り向く。
「わっ私の話題かな?」
ぎこちない笑みを浮かべて聞き耳を立てていた倉峰の表情筋がヒクヒクと動ている。
「倉峰さん。よかったらセイヤと一緒に部活見学をしてやってくれないか?」
「せっ、セイヤ君と私が部活見学?!」
鼻の穴が大きくなっている。
本当に見た目はいいのだけれど……行動一つ一つが残念に感じてしまう。
「いっいいのかい?」
「セイヤもいいだろ?生徒会室での話を聞いただろ」
後半部分はセイヤの耳元で小声で伝える。
倉峰さんには友達がいない。
ここでセイヤが断ればかなりガッカリするはずだ。
「うん。倉峰さん、よかったら僕と回ろうか?今日はヨルが一緒にいけないみたいだから」
「おっお供仕る!」
呂律と言葉がおかしなことになっているが、あれはあれで見様によっては可愛いのかもしれない。
「さて、行くか」
文科系女子は、体育会系女子に比べれば肉体的に劣っているかもしれない。
だが侮るなかれと俺は言いたい。
ここはあくまで貞操概念逆転世界なのだ。
文系女子であれ、男子を前にすれば飛びつきたくなる衝動を抱えているに違いない。
妄想傾向が強い文系女子の方がもしかしたら、その欲望を強くもっているかもしれない。
さて、ここで問題となるのはどの部に行けば、女子とお近づきになりやすいかということだ。
この青葉高校はパンフレットを見ても分かる通り、数えきれないほどの文化部が存在する。
その中で一番最初に選んだ部活は……
「よくぞ我が料理部にお越し頂きありがとうござます」
「「「「ありがとうございます」」」」
そう、俺が選んだのは料理研究会だ。
通称、料理部。
エプロン女子とキャッキャウフフしながら、共に料理を作る。
その際に手が触れ合い。共同作業をすることで親密度が増していく。
果ては……メイド服や裸エプロンも……
……
…………
………………………
あれ~どうしてだろ?
「第一回、料理部員による食戟バトルを開始します。優勝者には【黒瀬夜様】に試食してもらう権利です」
30名ほどいた料理部に見学を伝えたまではよかった。
良かったのだ。
見学にすると言った瞬間……王様が座るのではないかと思う豪華な椅子とテーブルが設置された。
そこへと座るように指示をされ、座ったとたん料理部の照明が落ちて食戟が開始された。
いつの間にやら解説部と実況部の女子が現れる。
なんでやねん!!!俺も一緒に料理して親密度深めるためにきてんねん。
「ふふ、部長。今日こそ下剋上をさせて頂きます」
「真美さん。あなたにはまだ負けるわけにはいきません」
いつの間にやら料理研究部部長と、一年生エース真美の戦いになってる!!!
「解説の貝瀬さん。二人の力量差はいかがですか?」
「実況のGKOさん。二人の実力はやはり経験値で部長。実績で真美さんでしょうね」
「というと?」
「部長は、三年間料理部部長として様々な食戟を勝ち進み。今の地位を手に入れて来られた。
しかし、実績の真美さんはご実家が日本料理の老舗として幼き頃から現場で実績を積んできた。
これは食戟という対決ではありますが、男性の胃袋を掴む女の戦いです!
つまりは、食戟を超えた!どちらが黒瀬夜様の胃袋を掴めるかという話です」
解説者が決め顔を作れば、敗者たちがむせび泣き始める。
……いやいや、まだ誰の料理も食べてませんけど。
「決着は!」
「くっ、真美さんあなた……」
「部長。すみません。勝負は非情なんです」
真美の食事を食べて倒れる部長。
勝ち名乗りを上げる真美。
「なっなんと言うことでしょう。あまりのおいしさに負けを認めて部長が倒れてしまいました」
「これぞ勝負。これぞ勝利ですね」
解説と実況が訳の分からないことを言っている。
真美と呼ばれていた一年生女子が料理を献上するためにテーブルに皿が置かれる。
部長が気絶するような料理食べたくないんだけど……
蓋が開けられると、皿の上には綺麗に彩られたアクアパッツァ。
女子たちから向けられる視線に、耐えきれられなくて料理を口に入れる。
「あっ美味しい」
俺が自然に声を出す。
「よし!!!!!}
真美さんは片手を突き上げ涙を流して気絶した。
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料理部を後にした後も、文化部ではいいところを見せようと頑張る女子たちのアピール合戦が開始された。
書道部では巨大【夜】の字を書き披露され。
合唱部では、黒瀬夜に捧げる賛歌を歌われた。
科学、ロボット部、AI制作部合同企画として、アンドロイド夜が出てきたときはドン引きした。
夕日が沈む2時間程度があまりにも濃密で、思っていたイチャイチャパラダイスはどこにも広がっていなかった。
文系女子は、己の得意なことを見せたくて仕方がないようで、何をしているのかも途中からわからなくなっていた。
疲弊して廊下で休んでいると、運動部がランニングしている姿が見えた。
「ユウナの奴、外を走ることもあるんだな」
水泳部員たちが、水着ではなくジャージを着て走っていた。
つい、幼馴染の姿を目で追ってしまう。
高校になってからは、夜のやりとりも「おやすみ」などの簡単なモノになった。
避けられているのかな?
中学時代は、たまに消すボタンとテレビボタンを押し間違えるユウナ。
そんなときはユウナの肌を見て女性を感じた。
高校になって部活が忙しいから邪魔してはいけないと思って、声をかけないようにしていた。
本当にそれでいいのかな?ヨルにとってユウナはもっとも近い存在だ。
中学時代、誰も話しかけてくれないなかで唯一話をしていた相手だ。
「なんて声をかけたらいいんだろ?」
ヨルは遠くなっていくユウナの背中を見送った。
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