Side 女子大生 ー 2
【相馬蘭】
その日はたまたま休みが重なってしまった。
むしゃくしゃする日々から逃げるように忙しくする中で、ポッカリと空いた一日。
ただ家で引きこもっているなど自分の性に合わない。
そう思った私は街に出て買い物でもしようと出かけることにした。
大学とモデル業の兼任をしている間に、お金を使うヒマもなく。
休みならばパー!と使ってヨルのことなど忘れてしまおうと思った。
いつまでもクヨクヨ悩んでいても仕方がない。
だから、今日の買い物を最後にヨルのことは忘れるんだ。
そんな気持ちで街に出た。
「ねぇさっきの男の人見た?」
「見た見た!めっちゃイケメン!しかも、スマートでスタイリッシュとかどっかのモデル?」
「えーでも、あんな男性モデルさん見たことないよ。確かに身長高くて顔もイケメンで完璧だったけど。あそこまで完璧すぎると声もかけれないよ」
「それよね。多分、撮影か何かで打ち合わせじゃないかな?私らが声をかけるなんて無理無理」
二人組の肉食系女子が、話している内容が聞こえてきて興味がわいてきた。
ヨルでは無いにしてもイケメンの男性を見れば、ヨルへの未練なんてなくなってしまうかもしれない。
この辺じゃ絶対にナンパしてそうな女子二人が尻込みするほどのイケメンってどんな人なんだろうか?私はそんな思いで男性を探してみた。
いや、探すまでもなかった。
ショーウィンドを見つめる男性を囲むように女性の輪が出来ていた。
私は一目見たいと囲いをかき分け男性へ近づいていく。
男性は鏡を前に衣装チェックをしているのか?ポーズを取っては鏡を見ている。
本当に身長が高くて彫りの深いイケメン。
イケメンのことを見つめていると、胸が締め付けられるような思いがして、近づいてしまう。
他の女性たちから哀れむような視線が向けられていることはわかっている。
それでも自分の足を止めることができなかった。
「えっと……ヨル?であってる?」
黒髪はユルフワウェーブパーマでオシャレにセットされ。
ダボッとしたシャツにほっそりとしたパンツ。
某有名洋服店のモデルがそのまま出てきたのではないかと思うイケメン。
でも、その面影はヨルのものだった。
「ランさん。お久しぶりです」
約二ヶ月ぶりのヨルは、見違えるような変貌を遂げていた。
どこか陰があり、女性に興味を持った視線を向けていた少年から。
大人のオシャレと余裕を兼ね備えた完璧な青年へ成長を遂げていた。
「ほっ本当にヨル……なんだよね」
前も身長が高くて大きかったが、そのときよりも高くなった気がする。
何より雰囲気が見違えるほど変わってしまった。
「随分と変わったのね」
「そうですか?結構ガンバッたつもりですけど。変わったと言われたのは初めてなのであんまり実感がないんです」
照れくさそうに髪をいじる姿も様になっている。
むしろ、可愛い。
カッコイイのに、可愛いとかズルい。
もうヤバい。ずっと会いたかった。
「……そう。うん。かっこよくなったよ。ガンバッたね」
チンプだけど、私にはそれしか言えなかった。
だけど、男性が一人で街を歩くなど不用心では?ここは早朝の人通りが少ない場所じゃ無い。
むしろ、肉食系女子たちが日々男子を物色する無法地帯なのだ。
「今日はこんなところで何してるの?」
心配になった私の質問に……
「夏物の服でも見ようと思って出てきたんですけど。男物の服がどこに売ってるのかわからなくて探していたです。実は今まではネットで買っていたので、お店の場所を知らなくて」
恥ずかしそうに話すとヨル。
もうダメだ。ヨルを放っておくことなんて出来ない。
休みが重なった日にヨルに出会ったのは運命だ。
「よし。なら、ヨル。今日は私とデートしましょう。男物の服が売ってるところを教えてあげる」
「えっ?いいですか?ランさんも何か予定があったんじゃ?」
ただ、むしゃくしゃしていて外に飛び出しただけだ。
ヨルに会いたかった。ずっと会ってキモいと言ったことを謝りたかった。
「ううん。今日は私も練習がOFFになったから、ちょっと気分転換に街に出てきて目的がないの」
でも、キモいと言ったことを彼は気にしていないかもしれない。
蒸し返すことが出来なくて、誤魔化した。
「じゃあ、お願いします」
それからは夢のような時間だった。
ずっと会いたかったヨルとデート。
たくさん話したいことが会って、私ばかり話してしまった。
「あの日から、本当に久しぶりね」
ブティックに着くまで、私は大学生活やモデルをしていることを話した。
ほとんど自分の話。唯一彼が話したのは、高校に入学したとだけ言った。
「ごめんごめん。私ばっかり話してるね」
「いえ、むしろランさんのことが知れて嬉しいです。それに本当にいいんですか?」
私が謝ると彼は本当に楽しそうに笑ってくれた。
ヤバい。男らしい彼の顔がクシャっと笑顔になった瞬間。
意識が飛ぶかと思うほど好きになった。
ブティックに入ってから私は選択を間違えたことを悟った。
男性だから、お金には困っていないと思った。
だけど、彼は値段を見て驚いた顔をする。
男性用の服は作り手が少なく、一つ一つの値段がかなり高い。
どうしようかと悩んでいる姿を見てチャンスだと思った。
私が選んでプレゼントすればヨルの好感度を上げられる。
思い立った私はすぐにヨルに似合う服を数着選んでレジに向かった。
「いいのいいの。ただし、その服を着たところを見せるのは私が一番ね」
カフェに移動した私たちは先ほどのブティックでのやりとりの話をする。
男性にしては珍しく恐縮した様子で何度も謝る彼。
女性が男性へ贈り物を贈るなど当たり前のことなのに、どうしてそこまで気にするのだろう。
むしろ、私が買ってあげた服をヨルが着ている。
これほど嬉しいことは無いのに。
「今日は本当にありがとうございます。お店を教えてもらっただけでなく、プレゼントまでしてもらっちゃって」
「もうそれは良いって言ったでしょ。大学生だけど、私稼いでるから」
モデルをしているけど。お金に使い道がなかった。
今日ほど有意義な使い方が出来たと思った日は無い。
「今度は、俺が出しますから食事でも奢らせてください!」
男性が女性に奢る?私と対等で居たいってこと?しかも、次の約束してもいいの?ずっと会いたかったヨルの方から私に会いたいって思ってくれるの?
「今度?えっ、うーん。仕方ないなぁ~ヨルがそこまで言うならいいよ。じゃあ連絡先を交換しようか?」
心の中でガッツポーズと勝利の雄叫びを上げまくる。
「はい!」
嬉しそうに連絡先を交換するヨルの顔にこれ以上は我慢できない。
このまま夜になったら私はオオカミになってしまう。
「そろそろ行こうか?」
これ以上一緒にいたら危険だ。
ここまで順調に話すことが出来た。
「ランさん。次も会えますよね?」
そんなこと言われたら、欲が出てしまう。
「……まぁ、うん。いいよ。またね」
我慢できなくて、私は走り去ってしまった。
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