ゼラニウムと汽笛

根路 真希

第1話

「海棠君、人は嘘をつく生き物だ。」

花井先輩はよくこのセリフを吐いてくる。


芝居がかった調子で、大人が子供に教えるように仰々しく、悠然と。

眉を少し寄せて真面目ぶるが口角は決まって少し上がっている。


別に彼女は性悪説に被れてるわけでも、

嘘を含めて人間は美しいだのと言う

大それた思想を持っているわけでもない。


あれは彼女の免罪符だ。

人と一括りにする事で、

自分嘘を瑣末なものと感じさせるための。


人は嘘をつく生き物だ。

この言葉の後、必ず彼女から嘘が出る。



東京駅から新幹線に乗って、僕と先輩は今佐渡島へと向かっている。

梅雨も終わった7月、まだ朝方にもかかわらず日差しは強い。さすが夏といった感じである。

高崎駅を通り過ぎて、稲の生い茂る田んぼが永遠と緑を作っているのを花井先輩はずっと興奮した様子で見ている。何が楽しいのか全くわかったものじゃないと言うと、君には情緒が足りないな、などと講釈を賜われた。


一緒に遠くの島に行くだなんてまるで恋人の旅行のようだ、なんて思うが彼女と僕は同じ文芸サークルに所属しているだけ。それ以上でもそれ以下でもない。友人と呼べるかさえも微妙なもんだ。

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ゼラニウムと汽笛 根路 真希 @nezimakigamu

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