第55話

「たまにルミナス様中身がおじさんなんじゃないかって思うんですよね」

「急に何を言っているの? 失礼だと思わない?」

「いえ、その……」


 ルミナスの目の前で言葉に詰まっているのはネオンだ。珍しくルミナスに対してただ肯定ではない言葉をかけたと思ったら失礼なことを言い出した。

 それは一週間の温泉旅行の初日の夜。夕食までの自由時間でルミナスが一人昼寝をしていて、目覚めたすぐ後のこと。ティナやキアラ、ミティムは各々気になることがあるようでネオンにルミナス様を任せて出かけていたので二人きりだった時にネオンが行った発言だ。


『ルミナスの中身、おっさん説』


 それはネオンの中で時たま浮上した説であった。


「えっと、観察していると見た目通りの少女じゃないっていうか、そんな感じがして……」

「見た目通りなわけないでしょう? 悪いけど人間ではないわたくしを人間の価値観で見ているとほとんど当てはまらないわよ。そのおっさん説は間違いなく間違っているわ」


 なんて言いつつ、彼は内心焦っていた。


(おっさんではないけど女の子らしくないってことだよね!? 一応全員の裸体を見た後だからここで男だとばれるのはまずい! おっさんではないけれど! そこだけは全力で否定するけれど!)


 体調不良であったため普通の人とは生活環境は違っていただろうが仮にも男子高校生だった彼だ。大好きなルミナスになりきることには抵抗はないし、女として見られるのは仕方ないと受け止められるがおっさん呼ばわりされるのは傷つくらしい。


「いえ、その何と言いますか。今のは言葉の綾でして……別に、ルミナス様を非難したわけではなくてですね」


 かくいうネオンも自分の失言には気づいている。かなり焦った様子でどうにか取り繕うと必死になっている。そんな様子を見ていつまでも苛立っていられる彼でもなく……。


「はぁ……別にいいわよ。実際、わたくしは見た目通りの年齢ではないわ。あなたたちからしたらこの容姿だと少女のように見えるのだろうけれど、一応そうではないことだけは覚えておいて頂戴。おっさんのように見える、というのはたぶん、日常の疲れとストレスのせいね」

「そ、そうですよね! その、すみませんでした。不敬とは重々承知ですが今回のことは、不問にしていただけると幸いです」

「いいのよ。わたくしがあなたたちがそばにいることを許したんだもの。わたくしも仮にも魔王領の領土を管理するものとして、模範たるべきだと思うし気になることがあったらどんどん言って頂戴。こっちでの生活も立ち振る舞いもまだまだ慣れていないからね」

「はい、そう言っていただけて光栄です!」


 焦りの表情を一転させて笑顔を咲かせたネオン。彼女自身口下手な自覚があり、常に気を配っているがやらかしてしまうことがある。直情的な性格であるために暴走気味の行動をとることも多々あるし、それによって迷惑をかけていないかと心配していたりする。そんな彼女を肯定するかのようなルミナスの言葉は彼女を深く感動させたようだ。


「今後とも、全力で尽くさせていただきます」

「ええ、お願いするわ」


 ネオンはとても明るい笑顔で言った。


(と、とりあえずごまかせたらしい)


 彼は優しい微笑みの裏で心底安堵した。

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