第54話
「温、泉ッ!」
可愛らしくも勢いがある声が張られた水を震わす。
声を発したのは美しい黒髪を丸く団子状にして頭の後ろに固めた少女、ルミナス・フレイア。その裸体にタオルを巻き意気揚々と風呂場に仁王立ちしていた。
「ルミナス様、温泉が好きなのですか? 普段お風呂には入りませんよね?」
「わたくしはそもそも体が汚れることはないからお風呂に入る必要は確かにないわ。でも、入ることで効能がある温泉は別よ。健康になれる手段の一つでもある」
「なるほど、そういうものもあるんですね。お風呂に入ること自体体の疲れをいやすいい手段ですし、今後は温泉を屋敷に引きましょうか」
「たぶん無理でしょ、キアラ」
「というかルミナス様なら転移能力で毎日入りに来たほうが効率がいい」
そんなルミナスの後に続いて四人の女性がルミナスと同じく裸体にタオルを巻いた状態でお風呂場に姿を現した。
「さすがに毎日は入りに来ないわよ……。それこそまた入りすぎで副反応、とか困るわよ」
「ははは……温泉にはさすがにあれほどまでの被害を起こすような効能はないと思いますが、使用は適度にという意味ではその通りかと」
「やっぱりそうですよね……」
ティナが苦笑いを浮かべて言うと、キアラは分かりやすく肩を落とした。
「まあ、とりあえず今日からしばらくはゆったりと使わせてもらいましょう。じゃあわたくし一番風呂ぉ」
ルミナスは鼻歌交じりの楽しそうな声を上げて温泉へと足を運んだ。地面を掘り、石を並べて作られた露天風呂。流石にまだ日が滝がこのあたりの地域は日本でいう秋に近い気候にある。そのため空気は少し冷たく、外で熱い温泉につかるには絶好の気温だ。
「こんな気候だったら、夜は星が綺麗かもしれないわね」
明るく輝く夜空を想像しながら、ルミナスは温泉へと。温度を探るように指先を何度かつけてみた後、ゆっくりと足を入れていく。やがて腰までつかり、胸、続いて肩までお湯につかる。
「ふああぁ~」
間延びした声を気持ちよさそうに吐き出すルミナスを、四人のメイドたちはみな優しい視線で見つめていた。ルミナスがしっかりと温泉につかりきった後で、四人も次々と入っていく。露天風呂はそれなりに広く、五人で入ってもまだ余りある。でも、五人の距離感が近く、また、その近い距離感を皆が快く思っていたのは、ルミナスが生み出した人間関係の賜物と言えるだろう。
ルミナスは日ごろの疲れをいやすため、すべての疲労を吐き出す勢いで――
「あああああぁぁ、極楽うぅ……」
――そう言った。
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