第42話
「それで、なにこれ?」
「さ、さぁ……ここまで多く頼んだ覚えはないのですが……」
ルミナスは茫然としていた。今朝方、ルミナスの屋敷へと搬送されてきたそれを見て。
「精霊薬、百本分……」
「これくらいあれば、一年は持ちそうですが……」
隣でキアラも苦笑いを浮かべる。
屋敷の玄関先に、何十にも積み重なる木箱の中身はどうやら精霊薬らしく、その本数はなんと百。その重量は余裕で百キロを超えるだろうそれは、十メートルを超えて重なっていた。
「三日に一本も使わないしね。薄めて使えるし、こんなあっても余る気がするのよね……」
「その通りです。あと、これ、この量が毎月来るそうです」
「え……資源が無駄になるじゃない」
ルミナスは真顔でそうこぼした。
「ははは……そ、そこは私のほうで何とかします。実験を繰り返し、より効果のあるものをおつくりします。あとは、そうですね。効能を薄めればほかの者たちにもお配りして、病気を治すとまではなく疲れをとるくらいのお薬にできるのではないかと」
「まあ、それならみんな喜ぶわね。やってみなさい、好きにしていいわよ」
「は、はい! 頑張ります!」
微笑みながら励ましをかけるルミナスに、キアラは溢れんばかりの笑顔で答えた。
「でも、これ運べるの?」
「あ、無理です。転移で運べますか?」
「……わかったわよ」
精霊薬はその後ルミナスがしっかりと研究室へと運びました。
「それで、キアラはもう一週間もこもっているんですか? 当番もさぼって?」
「まあまあ、いいじゃないですか。あの子なりに、ルミナス様へ尽くしているのですよ。それに、空いたキアラの分の当番はネオンが喜んでやってくれるのですから」
「お任せください」
「そうはいっても……」
深々とため息をこぼすミティムは、夕食をつまみながらなおも不満そうな顔を続ける。そんなミティムに対してティナが微笑みながら注意する。
「こんな時間に食べ過ぎると太りますよ」
「大丈夫です。私はいつも外で仕事をしていますし」
「それならそれで日焼けとかは大丈夫ですか?」
「心配しすぎです」
ミティムはいらだつというほどではないが、少し不満げにティナに言う。
「いいじゃないですか。どうせミティムはいうこと聞きませんよ」
「それもそうよね。まあ、ほどほどにしなさい」
「……わかってます」
それでも不満げに呟いたミティムを、ティナは優しい目線で見つめていた。
時間は夜の十一時ごろ。ルミナス様の寝静まったころ、メイドたちは休息の意も込めて食堂で遅めの夕食をいただいていた。三人は基本的にルミナスが就寝するまでは夕ご飯は食べないので、いつもこの時間になってから食べている。そして、時には不満を。時にはルミナスへの想いを語り合っているのだ。といっても、不満はもちろんルミナスへのことではなく、メイド同士へのものではあるが。
「ここ最近はルミナス様の体調もよろしくなっていますし、彼女のおかげでもあるでしょう?」
「そうですが……いえ、別に文句があるわけではありません。ただ、自分の仕事をしたうえで、というのはダメなのでしょうか。四日に一度は当番が回ってくる。逆に言えば、三日は休みがあるのですよ」
「それだけ熱中しているのでしょう。ルミナス様へ献上するためのお薬を作ることそれ自体、ルミナス様への奉仕といえるでしょう?」
「……そうですね。わかっていますよ」
ミティムはまだ不満気だが、それでも少しは機嫌を直したらしく表情が緩まった。
「三日の休みといえば、休みの間はネオンは何をしているの?」
「私ですか? いえ、特に。図書室にある本を読みふけったり。あとは、そうですね。ルミナス様の観察、でしょうかね」
「……ルミナス様のことが好きなのは知っていたけど、そこまでとはね……観察って? 具体的には?」
ミティムの問いに、ネオンは少し頬を赤らめて言う。
「おはようからお休みまで。ルミナス様がお部屋のお外にいらっしゃる間ずっと廊下の角から眺めております」
「……あ、っそ。うん、ほどほどにしなさい」
ミティムの隣で、ティナも軽く引いていた。
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