第43話
今日という日を、俺はこれからずっと恨むだろう。
彼は、そう言い残した。
とある日の明け方、ルミナスは気まぐれに目を覚ましてしまった。そう、頭痛と共に。
「頭痛い」
時間は朝四時。窓の外はまだ薄暗く、空に浮かぶ雲が少しずつ流れていく様子だけが見えていた。
時計の針が時を刻む度、ルミナスは頭痛を感じていた。頭がずきずきと歪むように波打ち、ひどく痛む。そして彼は言う。
「俺、死ぬかも……」
*
それはそう。精霊薬の投与を始めて二か月が経ったころ。ルミナスは体に違和感を覚えていた。
「ねえキアラ、この薬本当に大丈夫?」
「はい? お体に障りましたか? そんなはずは……」
「具合が悪いというよりは、意識が乱れるのよね」
「はぁ……すみません、わかりかねます」
精霊薬の研究に励むキアラの元にネオンを引き連れてやってきたルミナスは、そう頭を片手で押さえながら相談した。
「いったん、使うのをやめてもいい? それか使用量を変えるか」
「そう、ですね。そうしましょう。やはり、精霊薬とは体にかけるものでも飲むものでもないでしょうか。以前から様々な文献を読み漁っているのですが、精霊薬を飲んだ者やかぶった者はみなたちまち不調でなくなったと記されていたのですが……」
「それはあくまで文献。ルミナス様ほど大量に使用している人もいないでしょうし、そもそもルミナス様は人ならざる身。魔人として強大な力をお持ちであらせられるルミナス様が適応できていなかったとしても不思議ではない。違いますか?」
申し訳なさげに説明したキアラに、ネオンは若干の棘を含んでいった。
「やめなさいネオン、キアラだって必死にやってくれている。それに、この薬を研究してくれと頼んだのも飲むと言い出したのも私よ。悪く言わないで上げて頂戴」
「……はい、すみませんでした」
「私からも、申し訳ございませんでしたルミナス様。私に一任していただいておりながら、このような……」
「まあまあ、気にしないで頂戴。そもそも、この不調もいつものもので、この薬のせいとも限らないわ。原因がわからない以上、経過観察でもして確認するしかないわ。安心しなさい、私は簡単に死ぬような存在じゃないから」
「……はい」
ルミナスのあやすような言葉も意味なく、キアラは不安と懸念を顔に浮かべたまま静かにうなずいた。
それからルミナスはネオンを連れて魔王城へと出向いた。
「ふむ、精霊薬の副作用、か。我には覚えがない。この城にある文献も確認させるが、後日精霊に直接問いただしてやろう。しばし時間を」
「ありがとう魔王。悪いわね」
「いや、信仰熱い配下のためだ。今後とも協力してもらうにそれ相応の褒美と配慮を怠らないのがよき王なのだ」
「その通りね。あなたはよき王よ。感謝するわ」
「素直に受け取るとしよう」
魔王はニヒルな笑みを浮かべて、ルミナスを見送った。
(しかしルミナス嬢が精霊薬で不調気味、と。……大量に送った我が恨まれなければよいが……)
魔王は一人、玉座の上でしかめっ面を浮かべた。
そして、それから一週間がたったころ。ルミナスに危機が訪れたのだ。
「これ、絶対死ぬ……」
ひどい頭痛を訴えたルミナスがその後しばらくたったのち、膝から崩れ落ちるようにして。
その場に、倒れた――
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