第23話

 ルミナスは目の前に現れた門をくぐり、屋敷の外に出る。出てすぐ、少し離れたところから砂埃が近づいてきているのが分かった。この距離からでも聞こえる地をかける音、地面を伝う振動。おびただしい数の、多神。ルミナスは《死者の鎌デスサイズ》を構えて多神たちを見据える。覚悟を決めた表情で、告げた。


「今ここに、わたくしの正義の名のもとに、あなたたちを断ずることを誓うわ! 死という名の罰を、その身を持って受けなさい。始めましょう。死闘デスゲームを!」


 月光を受けて輝く紅の瞳が、神敵を捕らえた。紅に染まりし大鎌を、大仰に振りかぶり、構える。


「《加速する奔流クロックアップ》、《踊り狂う死人形デスマーチダンス》、《永劫の時の中でフリーズクロック》」


 強化スキルを重ね掛けする。ゲームではバランスを保つためにスキル発動には条件があったり回数制限があったが、この世界にそんなものは存在しない。ルミナスは少しでも勝つ可能性を上げるべく全力で自身を強化する。それが終わったころには、多神は目の前まで迫っていた。ルミナスは、改めて覚悟を決めた。


「行くわよ!」


 迫りくる数百の多神の群れの真ん中に向かって、ルミナスは駆ける。そしてルミナスと多神が接触したその瞬間、群れの前の方を走っていた多神の約半数が血しぶきを上げた。

 《加速する奔流クロックアップ》によって移動速度を上げたルミナスは縦横無尽に駆け回り次々と多神に鎌を振る。《死者の鎌デスサイズ》はその名に恥じず一撃で多神たちを絶命させていく。あっという間に二百体近くの多神が崩れ落ちた。


 その後も縦横無尽にルミナスは戦場を駆け、一歩動くと同時に多神を切り落とす。閃光が走るたびに血しぶきが舞い、命が尽きる。


 しかし、ルミナスが膝をついた。


「っく! これは、ちょっとまずいわね……」


 ルミナスの呼吸は乱れ、今にも吐き出しそうな勢いでせき込む。頭痛が響き、足がずきずきと痛む。普段運動しない弊害へいがいがここに来て出た。


「数は……半分くらい。あと半分は、きつそうね……」


 ルミナスの表情には、すでに苦痛が浮かんでいた。


 そん時背後から、ルミナスに食らいつく多神がいた。三匹同時に襲い掛かる多神にルミナスは気づいた。


「《咲き乱れる鮮花ブラッティレイン》」


 三匹の多神が、爆ぜる。体内の空間を押し広げ、爆死させるルミナスのスキルだ。かなり悲惨な光景になるためゲームには描写がなかったが、現実で見ると吐き気がするほどにグロイ。飛び散る肉片でルミナスの顔が汚れる。


「はぁ……はぁ……能力の使い過ぎは、頭に響く……っ!? 《死の檻デスプリズム》ッ!」


 危機を感知したルミナスが咄嗟に発動した《死の檻デスプリズム》に巻き込まれて、虚空から現れた数十匹の多神が倒れ伏す。


「光学迷彩なんてゲームにはなかったはず!? くっ、ゲームのまんまってわけじゃないということね」


 後方、前方、側方。それぞれから大量の足音が聞こえてきた。


「っ!? こうなったら、《刹那の終焉ライフステイン》ッ!」


 スキルの発動と同時、ルミナスを中心とした約百メートルに半透明の膜が張られた。それは結界のようで、その内部に薄紫色の光を放った。そして突如その場に姿を現した多神たちが倒れ伏す。すでに息もしておらず、即死だった。


 《刹那の終焉ライフステイン》はスキルの効果範囲内にあるすべての物質の状態を加速度的に老化させるスキルだ。多神の肉体は腐り、心肺も停止。絶命に至ったというわけだ。生えていた草は枯れ、地面は荒れ果て、空気は――腐った。

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