第24話
「知らない天井、ってわけじゃない……」
いつから寝ていたのか、どこで寝たのか。それすらもわからぬ状況ではあるものの、彼は目を覚ました。結局ルミナスに転生したのは夢オチ、というのも考えたが首筋にくすぐったい髪の毛の感触を覚えたので違うことが分かった。彼の髪は本来そこまで長くない。
「ルミナス様……っ!? お目覚めになられましたか!」
ここ最近耳にしていた声が聞こえた。首だけそちらを向いてみればそこには茶髪ロングストレート美人、ティナがいた。翡翠色の瞳に涙を浮かべて、歓喜と心配に覆われた表情でルミナスを覗き込んできた。
「ええ、大丈夫よ。……それより、どうしてわたくしはこんなところで寝ているのかしら?」
寝起きだからか痛む頭をゆっくりとおこしながら、彼はティナに尋ねた。どういうわけか眠りについた直前の記憶が分からない。覚えているのはキアラがいなくなってしまったことくらいで――
「そ、そう言えばキアラは!? キアラは無事なの!?」
焦る心を出来るだけ落ち着けて、口調だけはそのままに聞いてみる。先ほどの問いへの返答もまだなうちから質問をするのは良くないと分かりつつも、キアラのことを心配するといてもたってもいられなかったのだろう。
「キアラならば、無事です。今はもうルミナス様のためのお薬を作っています。これも、ルミナス様のおかげです。……後で呼んできますね。きっと、大喜びですよ」
「そう? それならいいんだけど……」(俺、何かしたんだっけか?)
彼は少し考えてみるが、思い出せない。記憶喪失にでもなったかのように、記憶がすっぽり消えてなくなっている。そんな感じがした。何か要因がないか、と自分の中で答えを探してみるが思い当たる節はない。
一人で考えても埒が明かなそうなのでティナに聞いてみることにした。
「それで、話を戻すのだけれどどうしてわたくしは寝ているの? よく思い出せないのだけれど」
「やはり、相当傷が深かったのでしょうか」
「傷? ……もしかしてわたくし、多神との戦闘で記憶を失って?」
あり得ない話ではない。多神は確かに強力なうえに、個体によっては特殊能力を持っているやつもいるという。もしくはルミナスの負った傷が深く、脳に損傷が激しかったか。どちらにしても良いことはないだろう。
「それが、私たちが駆け付けた時には既に戦闘は終わっており、荒れ果てた地面の上でルミナス様が横たわっていたのです。不自然に植物が枯れていたり、一部の多神の死体の劣化が著しかったりと不可思議な点はありましたが、ルミナス様の体には傷一つありませんでした」
「そうなの? じゃあ、傷が深かったというのは?」
「ルミナス様の能力によるものではないでしょうか。あれだけの戦闘をして本当に傷一つないなんて、ルミナス様と言えどありえないかと」
「ふむ……なるほど」
彼は一人納得した。
(つまり俺は《
《
その結果、能力を発動してから一定時間以内の記憶や傷が無くなったということだろう。
(俺も結構無茶したもんだ。でも、それでキアラを守れたみたいだし、まあいいか)
他にも色々とやらかして良そうだったが、忘れてしまったものはしょうがない。そう自分に言い聞かせて、ひとまずはキアラの無事を素直に喜ぶ彼でった。
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