第19話
彼が腹痛について相談すると、少し考えた後にキアラが言った。
「それは大変ですね……あ、でしたらおなかの調子の改善に良い薬草を取り寄せておきます。あと、精霊薬なども用意できると思います。高級品ですが、ルミナス様のような爵位を持つお人ならば簡単に入手できるはずですし、私から交渉しておきますね」
「そう? ありがとうね。それにしてもキアラは物知りなのね。わたくしの知らないことをたくさん知っているみたいだわ。他にも色々と教えてくれる?」
「あ、はい! ルミナス様がそうおっしゃるのならば、喜んで! 幼少期、厳しい教育を受けてきましたけれど、役立てられて嬉しいです」
キアラはそう言って嬉しそうに笑った。
「宮廷作法を受けたこともあると言っていたし、もしかしてキアラは貴族の出身なの?」
「はい。キアラは隣の人間の国の貴族の娘です。他国への移動中にさらわれちゃったんですけど、ルミナス様のもとにつけて嬉しいです」
「……さらわれた? なに? あなたたちってもしかして魔王に捕まった子たちなの?」
「え? はい、一応奴隷という扱いのはずです。ご存じでなかったのですか?」
「ええ……いや? もしかしたら魔王に言われたかもしれないわ。でも、今の今まで忘れてたわ」
あの時はお腹が痛かったしな、と彼は脳内で言い訳をする。
「左様でしたか……ま、まあ奴隷と言っても過酷な環境で過ごしていたわけではありません。どちらかというと交渉材料という形で大切にされてきました。特にキアラなんかは貴族ですし、周りのミティムさんやネオンさんも酷い待遇ではありませんでしたよ? ティナさんはキアラたちよりも長い間捕らえられていたようですが、元気そうですし」
「なるほどね……じゃあ、魔王に何か言うのも筋違いね。書類の提出と一緒に小言の一つでも言ってやろうかと思ったのだけれど、その必要はないわね」
言えるかどうかは別だけどな、と彼は小さく呟いた。
「ははは……キアラたちは大丈夫ですよ。ルミナス様のお世話係になる前は他の魔族の方々のお世話をしていたのですが、今より大変でした。今、と言ってもまだ数日程度ですがここに来れてよかったと思っています」
「そう? まあ、人使いが荒いほうではないから安心していいわ。体調が悪い時だけ面倒見てくれれば、放っておいてくれてもいいのよ?」
「さ、さすがにそういうわけにはいきません。キアラはルミナス様のメイドですから、しっかりとお世話させていただきます!」
胸を張ってキアラは言った。彼は小さく笑みをこぼした。
「よろしくお願いするわね」
「はい! お任せください!」
「じゃあまずは、そのお腹の調子が良くなる薬草を集めてもらう手筈を整えてもらえるかしら?」
「わかりました! では、失礼します!」
キアラは明るい笑顔と彼の残した料理と共に部屋を出て行った。
「騒がしいけど元気でいい子だよなぁ、キアラ。是非とも頑張ってもらいたいものだが……それにしても奴隷、ねぇ……」
彼の頭を渦巻くのは先ほどのキアラの言葉。キアラは彼女たち四人は奴隷だと言っていた。交渉材料として丁重に扱われていたとのことだが彼の道徳心的にはよろしいとは言い難い。とはいえ何ができるわけでもなく、奴隷を否定する根拠があるわけでもない。こんな現状で魔王に色々言うのもおかしいと言える。
「不当な扱いとか受けてることが発覚したら何が何でも一発殴ってやるか。さて、それじゃあ俺は食後のお薬でも飲みますかね」
彼はいったん考えることを放棄して、その日の午後もベットの上でゴロゴロと過ごしたのだった。
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