第20話

「――ナス様! おき――! ルミナ――」

(な、なんだ?)


 ベットの上でゴロゴロしていただけのつもりだった彼だが、いつのまにか寝てしまっていた。しかし、そんな彼に対して呼びかける声があった。眠りから目覚めた彼は重い瞼を持ち上げて眠たい目をこすりながら体を起こす。


「あ、ティナ。どうかした?」


 彼の視界がはっきりすると同時に彼の瞳に移ったのはティナだった。どうやら彼女が彼に呼び掛けていたようだ。


「それが、キアラがいないのです!」

「……ふぇ? キアラが、いない!?」


 衝撃の発言を前に彼の眠気は完全に消し飛んだ。


「い、いないって、どういうこと?」

「その、実は体調を改善するための薬草がここの近辺にある森に生えているらしく、それを採取しに行くと言ったきり帰ってきていないんです。森まで歩いて二十分程度。キアラが出かけてからもう七時間が経ち、日も暮れ始めているというのにおかしいと思い、ルミナス様にお力を貸していただけないかと……!」

「もちろん手を貸すわ。場所はどこかわかる?」

「はい。ここから南西に一キロもない程度の場所に森があります!」

「……出かけるわ。あなたたちは待っていなさい」


 窓の外を覗いてみれば空は薄っすら紺色だ。時計の時刻を見てもすでに午後八時。子どもでなくとも帰るべき時間だ。森の中、ということで何か怪我を負ったかそれとも猛獣に襲われたか。どうであったとしても危険だと判断し彼は出かける決意を固めた。


「い、いえ、私たちもお供を……」

「わたくしはともかく、あなたたちが猛獣と遭遇でもしたらひとたまりもないでしょう? 安心しなさい、必ず連れて帰るわ」

「し、しかし、お体に障るのでは……?」

「わたくしの体の具合より、人一人の命のほうがずっと大切よ」

「っ!? ……か、かしこまりました。ご武運をお祈りいたします」

「ええ。一応念のために手当の準備を進めておいて。怪我をしていたり、毒を飲んだりしてしまっていたらすぐに対処できるように」

「はい。では、行ってらっしゃいませ」

「行ってくるわ。《冥府の門ハーデスゲート》」


 彼は目の前に現れた黒い点に向けて言葉を告げる。


「キアラの元へ。頼むから無事でいて頂戴……!」


 やがて広がった黒い円をくぐり、彼はこの場から消えた。ティナは自身の主が姿を消すまで、深々と頭を下げていた。

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