第12話

「ふう、助かった」


 魔王に示された領地にポツンと佇む屋敷の中の、お手洗いの中で一人の少女が一息ついていた。黒色のゴスロリ衣装に身を包んだ美少女、ルミナス・フレイアである。


「領地って言っても開拓前の荒野。管理することと言ったら開発の進行具合の報告くらい。その管理ですら魔王の部下がやってくれるらしいし、本当に簡単な仕事だな。魔王がそれだけ俺のことを認めてくれたってことか」


 お手洗いの中で呟かれたその言葉が全く的を得てないということを彼に教えてくれるものは、誰一人としていなかった。


「ふう、だいぶ落ち着いたな。あとで薬を発注しなきゃな。カロ〇ールとか正露〇はないだろうし、何がいいかはしっかり調べないとな」


 しばらくしてお手洗いを出た彼は、屋敷の中を探索しながら今後のことについて考えた。


「屋敷は何十個も部屋がある大豪邸。俺の執務室だけでも五つあるみたいだ。お手洗いの位置は一階と三階の西、二階の東と北だな。覚えておこう」


 三階の階段を上り切り、西側にお手洗いを見つけながらそう呟いた。


「で、食堂が一階で、そこに併設される形で厨房がある。まだいないけどすぐに料理人が来るってことだし、ご飯はしばらく我慢だな。あと、アレルギーについて知らせないと。応接室がこっちで、書斎がここか」


 本などはこの土地の資料が数冊しかないが、無駄にだだっ広い書斎を覗きながら彼はそう呟き、


「俺の寝室が三階。その他の人の寝室が二階か。でも、一人くらい隣の部屋に配置したいな。すぐに対応してもらえないと困るし。その他の物資は一階に置くんだろうから、これで全体像は把握したかな」


 そして満足そうに自身の寝室で横になってそう言った。

 ちなみに彼がここまで屋敷について理解しているのは、屋敷の入り口に置いてあった資料を読んだからだ。事細かく屋敷の内装や部屋の用途について記載されていた。魔王が分からないことを尋ねにルミナスが帰ってきても困るとルミナスがその場を去ってすぐに用意したものだった。


「ふう、結構疲れたな。おなかの調子も戻ったし、頭痛もだいぶ良くなった。吐き気は消えたし、喉も大丈夫だな。この領地の周りには杉の木はないみたいだし、花粉も気にしなくていい。アレルギーについてのメモも厨房に置いておいたし、これで安心だ。ふぁあ……久しぶりに運動したからか、眠気が……」


 ベットに仰向けになりながら、うつらうつらと目を擦る彼は、本当に眠そうだった。


「まあ、やることはやったし、ここなら安全だし。すこ、し、寝ちゃおう……か、な……」


 彼の瞼が完全に落ち切ったとほぼ同時に、小さな寝息がし始めた。すやすやと眠る彼の寝顔は、とても可愛らしかった。

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