第10話

「さて、一気に飛ばしてきちゃったけどここが魔王の部屋っぽいよな? 大丈夫かな、瞬殺されたりしないよな?」


かなり緊張しているようだが、今までを見るに恐らく大丈夫だ。


「よ、よし! 俺はルミナスだ。ルミナスは恐れない。最強らしく、堂々とふるまうんだ! 行くぞ!」


決意を固めて扉を開いたその先に、そいつはいた。


「よく来たな、愚かなる挑戦者よ! よく我が配下を下し、ここまでたどり着いた。我直々に、貴様の相手をしてやろう!」


 黒マントに黒服を着て、黒い角をはやした好少年といった印象だ。ダークな感じのイケメンで、魔王というよりは中二病患者に見えた。だがしかし、彼には凶悪な魔王に見えたらしい。

 一歩後ずさる。しかし、何度とか踏みとどまって口を開いた。


「っ、い、良いでしょう。魔王とおっしゃったかしら? この冥界からの使者ルミナスが、あなたの命を頂戴しますわ!」(よし、決まったぁ!)


彼は心の中でガッツポーズをした。


「その意気だ、さあ、いざ勝負――と言いたいところだったが、貴様には見込みがある」

「へ?」


 これから天地を砕く激闘が始まるかと思われたさなか、魔王はそんなことを言い出した。


「その覇気、その魔力。我に対して一切の怯えを見せないその胆力。うむ、合格だ。貴様、我の部下にならないか?」

「ん?」

「っくっくっく、そう硬くなるな。これはそなたにとっても都合のいい話のはずだ。我は優秀な部下が手にはいり、あなたは膨大な富と名誉を手に入れる。もちろん階級は我が国における伯爵とする。できればすぐにでも領地を預けたいところだ」

「え?」


 かなり早口でまくし立てる魔王に、彼は混乱していた。


(ど、どういうことだ? なんだか、俺と戦いたくないみたいな口ぶりな気が。まさか、俺にビビって? いや、でも魔王がそんな、そんなビビりなわけがない。俺には見込みがあるって言ってたよな。魔王に認められたってことか? 伯爵にしてくれるとか言っているし、領地をくれるとか言ってる。これはかなり優良株として買われたってことか? まあ、俺としては争いごとは好まないし確かに悪い提案ではないけど……)


 そんなことを考える彼に対して、魔王はかなり焦っていた。


(ど、どうだ? この条件なら、悪くないはずだ! 二階層から六階層までの守護者をノンストップで薙ぎ払いここまで来たという話、信じたくはなかったがいざ対峙して理解した。こいつは化け物だ!)


 ルミナスがお手洗いに言っている間に部下によって自身の腹心たちの悲劇を知らされていた魔王は、実際にルミナスを見て勝てないと判断し、交渉を持ち掛けることにしたのである。

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