第9話

「あーっと、二階はこれで攻略したってことでいいのか?」


 咳の痛みも治まり、軽い頭痛こそするもののいつも通りに戻ったところで彼は倒れ伏す鎧を見下ろしていた。


「死んでは、いないか? でも、さっきお見事って言ってたし、クリアでいいっぽい、よな? よし、じゃあ先に進むか」


 進んだ先には階段があり、三階に続いているようだった。


「これからもあと何回かさっきみたいなやつが出てくるってことだよな……俺、持つかな……。まあ、でも今の俺はルミナスだし? ちゃんと戦えばさっきみたいに余裕なはずだし? いや、さっきのは運要素も強かったけども。大丈夫だ、感覚はつかんだ。今度は余裕勝ちしてやる」


 またも意味のあるのかわからない決意を固め、彼は先に進んだ。階段を上ると、やはり三階に繋がっていた。


「お、見えてきた見えてきた。次のお相手はどんなや、つッ!?」


 三階のフロアが見えてきたところで、彼の表情には焦りが生まれた。何をされたわけでもないのに膝をついた。彼はフロアの奥の方を、ただ睨むだけだった。


「ふっふっふ、我に恐れをなしたか挑戦者よ。残念だったな。貴様の幸運も、ここまでだ!」


 仰々しいセリフとともに姿を現したのは、全長十メートルを超える狼だった。その高さだけでもルミナスの約三倍。衣は逆立ち、笑みの隙間から見える牙は白く輝いていた。そんな狼を、彼はただ憎そうに見つめていた。


「怯えて声も出ないか? 悪いな、ここに来た挑戦者を殺すのが私の役目なのだ。ここで死んでもらう!」


 狼は、勢いよく彼に向かってとびかかった。


「っく、腹痛が蘇った!? さっきのじゃ不十分だったのか? それとも、激しい運動をしたから?」


 彼はそう疑問を抱くが、彼がした運動と言えば階段を上ったことくらいである。


「覚悟!」


 狼の鋭い牙が彼を襲うかと思われたその瞬間、彼の姿は消えていた。


「邪魔だ犬っころ! 俺は今急いでるんだまたあとで構ってやるから!」

「え、ちょっ!?」


 そして狼の後方に階段に向かって走り出した。その時、必死過ぎて狼を思いっきり振り払い、壁にめり込ませていたが、そんなことを彼は知らない。


「下に降りてもいいけど、また上りなおすのが面倒くさい! さっさと最上階まで行ってやる。さすがにお手洗いの一つくらいあるはずだ!」


 そう叫んだ彼は、途中四階層と五階層、六階層のボスを知らぬ間に攻略していた。


「ふう、助かった……」


 そして最上階七階層。魔王がいる部屋の手前にあったお手洗いで彼は用を足したのだった。

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