第8話

 階段を上り切り、二階に到達すると広間に出た。そして、そこに何かがいた。


「よく来た挑戦者よ。私は魔王城二階層守護者、首無し騎士デュラハンという。さあ、かかってくるがいい!」

「はあ?」


 意気揚々と叫ぶ首無し騎士デュラハン……?


「いや、どこから声が出てるんだ?」

「そのようなことは聞かないのが礼儀だろうが」

「えっ、あ、ごめん……じゃなくて! それで? 何用ですの?」

「……貴様、愚かにも魔王様と相まみえることを望む者よ。まずは私が相手をしよう!」


 彼を待ち構えていたのは黒光りする鎧に身を包んだ首無し騎士デュラハンだった。声からして中身は男だ。

 首無し騎士デュラハン自身の身長ほどありそうな、鎧と同じく黒光りする剣を肩に乗せて挑発的な笑み……?


「どうしてあなたが笑っているとわたくしは理解できるのですか?」

「私に聞かないでほしい」


 今度はどういうことか困ったような表情をする首無し騎士デュラハン。どうやら首から上がなくとも表情は作れるものらしい。新たな発見だった。

 それはそうとルミナス口調になった彼は仕方なく、といった感じでため息を吐く。


「では、わたくしの力の一端を見せてあげましょう」


 などと意気揚々と言っているが――


(やばいやばいやばい!? あの大鬼ほどじゃないがかなり怖い!? ギャグ要素強めだから何とかなってるけど!? ……と、取り合えず落ち着け。ルミナスはゲーム内においてはトップクラスの実力者だった。この世界でもそれなりの強さは持っているはずだ。ひとまず武器を取り出そう、ルミナスと言えば、のあの大カマを!)


 彼は右手を掲げ、言った。


「おいで、《死者の鎌デスサイズ》」


 ルミナスの戦闘開始ボイスと同じそのセリフに答えて、時空を超えて《死者の鎌デスサイズ》は現れる。黒光りする刃に鮮血色の装飾。持ち手の先から伸びる紫の飾り紐が風に揺れていた。


「ほう、その魔力と武器、さては上位魔人だな? っふ、相手にとって不足なし!」

「それは光栄ですわね。では、始めましょう。死闘デスゲームを」


 またまたゲーム内のルミナスのキメ台詞を叫んで、彼は戦闘を開始した。

 実は急展開に感情がちっとも追いついていない彼であったが、この場を何とか切り抜けないと自分の命はないと悟り、必死に戦おうとしている。


(ま、まずは小手調べだ! ルミナスの得意技、死の檻デスプリズムで――)

「遅い!」

「っ!?」


 開始からわずか数瞬後、首無し騎士デュラハンは彼の目の前に出現した。


(は、早い!? 序盤にしては強すぎ――いや、ここ最終局面じゃね!? 攻略する順番間違えてね!?)


 今更になって大変な事実に気づいた彼は、咄嗟にルミナスの得意技の名前を叫んだ。


「《死の檻デスプリズム》ッ!」


 突如として首無し騎士デュラハンと彼を囲むように無数の黒い穴が現れた。それを確認した彼は、咄嗟に掲げていた鎌を黒い穴の一つに突き刺した。

 そして、それと同時。無数の穴のすべてから・・・・・黒光りする鎌の刃が現れた。首無し騎士デュラハンを取り囲むように現れた鎌の刃たちは、首無し騎士デュラハンの鎧を紙のようにいとも簡単に切り裂き、傷を負わせた。いや、致命傷を与えた。


「お、み……ご、と……」


 そして首無し騎士デュラハンは力なくその場に静かに崩れ落ちた。無数の黒い穴が消え、彼の鎌も元に戻る。

 先程の技、《死の檻デスプリズム》はルミナスの時空を操る力を活用した技で、時空を捻じ曲げる空間を作り出し、黒い穴を通して鎌で攻撃することで何人たりとも逃げ出せぬ檻を作り出す、というものだ。《死者の鎌デスサイズ》の攻撃力はすさまじく、ゲーム設定上はアダマンタイトですら紙のように両断する。

 そんな《死の檻デスプリズム》を食らった首無し騎士デュラハンは、一撃で沈んだのだった。


 そして《死の檻デスプリズム》を使った張本人である彼はというと――


「ゲホッ、ゲホッ、ゲホオオオォッ!? ああ、のどいてぇ……ダメだ、ビビりすぎて唾変なところに入ったかもしれない。喘息が、ゲホッ!? 」


 咳で苦しんでいた。

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