第7話

 何とか大鬼を攻略(?)し門を抜けた彼は魔王城の玄関に向けて一本道を歩いていた。


「というか、警備ザルじゃないか? あの門番以外誰もいないのか?」


 辺りを見渡してみるが、決して趣味がいいとは言えないような園芸作品だったり噴水以外にはなにも見当たらない。それだけあの大鬼に信頼を寄せているということだろう。

 そして難なく魔王城の扉にたどり着いた彼は、その前で立ち止まる。その門は大鬼が守っていた門よりはだいぶ小さいとはいえ、五メートル近くある。あの大鬼のような背丈の生物がいることを考えれば当然であろうが、それでもかなり大きかった。


「さすがにこの扉を開けた先には誰かしらいるはずだ。警戒させないように胸を張って、もし戦闘になっても全力で逃げることを考える。時空を操るルミナスは攻めよりも逃げが得意、なんだと思う。だから大丈夫だ」


 確信のない決心を何とかかき集め、彼は扉を勢いよく開いた――


 ギィ


 ――つもりだったが開いたのはルミナスが通れるギリギリくらいだけだった。扉全体からしてみれば小さな隙間程度である。


「す、滑り出しはミスったな。いや、想像以上に扉が重かった」


 ちなみに、勢いよく開けるつもりでかなり力を籠めた右手は、軽く捻挫した。しかし不幸中の幸いと言っていいのか悪いのか、彼は度重なる怪我の末に並々ならぬ痛みへの耐性を習得していた。


「あ、そう言えばルミナスって時空を操るから、時間も操れるんだよな。えっと、確か時間を巻き戻す魔法は……《巡る運命リ・フェイト》」


 痛みをこらえながら抱えた右手の上に、黒い魔法陣のようなものが現れた。その魔法陣らしきものから黒い光が現れ、彼の体を包みこむ。すると、彼の服についていた汚れが見る見るうちに消え去り、ヒリヒリと痛んでいた右手が改善した。ついでに鼻詰まりはだいぶ解消した。


「それでも腹痛は収まらない、か。ひとまずお手洗いを探すとしよう」


 結局そう言う結論に至った彼は場内を散策する。不思議なことに、場内もまた人の気配はなかった。誰一人として見当たらず、順調に場内を進んで行く。


「何がどうなってる? いや、まあいいか誰もいないなら好都合っと。あ、あった!」


 ご丁寧にお手洗いと表記された看板のある個室を見つけた。


「もし男女別だったらどっちに入ったらいいか分からなくて困るところだったが、個室ならそれでいい。ちょっと使わせてもらいますよ、っと」


 彼はさっそく扉を開けて中に飛び込み、用を足す。魔王城のお手洗いは予想に反して結構清潔感にあふれていた。


「手も洗ったし、これでいいか。でも、魔王城に入ったからにはやっぱり魔王に挨拶したほうがいいよな……探してみるか」


 彼は再び場内の探索を開始する。場内の廊下はやはり広く、幅が十メートル近く。高さも五メートル近くあった。これならドラゴンでも通れそうだ。


「いや、実際いたりするんだろうな、ドラゴン。ファンタジー世界の定番だもんな」


 常日頃から頭痛が酷く、画面を見ると言ったらスマホゲームをしているとき程度の彼にとってアニメや本といったものはなじみのないものだったが、ゲームの広告でたまに出てくるためファンタジー世界がどんなものかはある程度知っている。ドラゴンがその定番であることもまた知っていた。ドラゴン〇エストとかも名前だけは知っている。


「さて、そんなドラゴンに続いてファンタジーの定番と言える魔王様はどこにいるのかな? まあ大抵は魔王城の一番上とか、一番奥にいるものだよな。頭痛も腹痛も結構よくなったし、上ってみるか」


 ちょうど階段を見つけた彼は、意気揚々と二階に上っていった。その先で何が待ち構えているのかも知らずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る